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ジョンソン & ジョンソン(JNJ)について
ジョンソン & ジョンソン(以下、JNJ)は医薬品、医療機器を扱う総合ヘルスケア企業です。
日本人にとっては絆創膏のバンドエイドや、スキンケア商品のジョンソンボディケア、オーラルケア商品のリステリンなど、一般消費者向けのヘルスケア関連商品に馴染みがありますが、事業セグメントで大きな割合を占めるのは医療用医薬品事業になります。

免疫領域に強みがあり、「ステラーラ」は乾癬、乾癬性関節炎、潰瘍性大腸炎、クローン病など、「レミケード」は既に後発品が出ていますが関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、潰瘍性大腸炎、クローン病など一つの製品が複数の疾患で使える大型新薬を持っているのも強みです。
医療機器はスイッチングコストが高いため、一度導入されると安定した収益を生み出してくれます。
地域別の売上を見ると、米国が半分を占めていますが、欧州も2割以上占めています。
今後、アジアやアフリカなどの地域の経済規模が大きくなれば、さらなる成長が期待できそうです。

株価
JNJの現在の株価は以下のようになっています。
財務情報分析
ここからは財務情報分析を紹介します。
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貸借対照表(B/S)
以下は、JNJのバランスシートです。
直近では流動資産が流動負債を若干下回っていますが、毎年のようにフリーキャッシュフローがプラスでキャッシュを生み出す力が強い企業ですのでそこまで心配はしていません。
詳細はキャッシュフロー(CF)のパートを参照ください。

研究開発はプロジェクトが完了すると耐用年数の確定した無形資産として会計処理されますが、それまでは耐用年数が確定できない無形資産として会計処理されます。
JNJは株主から集めたお金を使ってしっかりと利益が挙げられており、純資産に厚みがあります。
その他包括利益(損失)には外貨両替損益、有価証券損益、従業員福利厚生に関する損益、デリバティブ及びヘッジに関する損益が含まれており、関連する税効果を差し引いた額が計上されています。
資本金 | $3,120M |
その他包括利益(損失) | $-12,967M |
自己株式 | $-41,694M |
利益剰余金 | $128,345M |
純資産合計 | $76,804M |
損益計算書(P/L)
以下は、JNJの損益計算書です。

売上高に占める原価率は33%、販管費は26%、研究開発費は15%となっており、営業利益率は26%と高い収益性を誇っています。
製薬企業は原価率が低く、研究開発比率が高く、営業利益率が高いという特徴があります。
これらについては以下の記事で解説していますので参考にしてください。



営業利益から差し引いている仕掛研究開発費はインプロセスR&D(In-Process Research and Development)と呼ばれるもので、企業買収をした際に研究開発費とは別目で費用計上されるものです。
IPR&D
IPR&Dとは、インプロセスR&D(In-Process Research and Development)の略称で、仕掛研究開発費ともいう。
exBuzzwords
企業の買収等によって資産、負債を受け入れることになるが、そのうち、特定の研究開発目的に利用されており、別目の研究開発に代替使用できない資産をいう。
被買収企業の研究開発の価値、期待値といえる、通常の研究開発費とは区別される。
また、のれんとも区別され、のれんが長期にわたり均等償却されるのに対してIPR&Dは一括して費用計上される。
JNJは2019年にAuris Health 社を買収するとともに、一般外科用の手術用ロボットシステムOttavaを取得しました。
Ottavaの開発が約2年遅延していることから9億ドルの減損費用が発生しました。
売上高・営業利益・営業利益率・純利益の推移
売上高は右肩上がりで営業利益率も毎年25%以上となっており、収益性が高い企業であることが分かります。
2017年は純利益が大幅に減っていますが、税制改革に伴い一時的な費用を136億ドル計上したため、利益を打ち消しました。
この税制改革で企業が海外に留保した利益に最大15.5%の税金が課されることになったのですが、海外売上比率が高いJNJはその影響を受けました。
株主還元
以下は、JNJの純資産とフリーキャッシュフローの推移を折れ線グラフで示しており、配当と自社株買いを積上げ縦棒グラフで示しています。
毎年連続増配するためにはキャッシュが必要になりますので、フリーキャッシュフローと配当金の推移をまとめています。
変動幅が大きい当期純利益では還元状況がつかみにくいため、企業によっては分母を純資産としたDOE(株主資本配当率)を還元目標としている場合もあります。
そこで、純資産と配当金の推移もまとめています。
Annual Report(CONSOLIDATED STATEMENTS OF CASH FLOWSのDividends to shareholders, Repurchase of common stock)より作成
自社株買いと配当による株主還元を積極的に行っていることがわかります。
JNJは50年以上連続増配を更新中の配当王かつ配当貴族銘柄でもあります。
配当王・配当貴族銘柄については以下の記事を参考にしてください。

連続増配株ですので配当による株主還元を重視しつつ、業績に応じて自社株買いをするものと思われます。
EPS・DPS・配当性向
毎年連続増配をしていますが、ここ数年の配当性向は60%を超えてきています。
2018年に配当性向が大幅に上昇しているのは、前述の通り、税制改革に伴い一時的な費用を計上し、利益を減らしたためです。
MorningstarのDividendsより作成
ROA(総資産利益率)ROE(自己資本利益率)ROIC(投下資本利益率)
以下は、ROA、ROE、ROICでJNJの収益性を折れ線グラフで示しています。
2017年に大幅に減っているのは、前述の通り、税制改革に伴う一時的な費用を計上したためです。
Morningstar(Operating Performance)より作成
- ROE(%)= 当期純利益 ÷ 自己資本
- ROA(%) = 当期純利益 ÷ 総資産
- ROIC(%)= 税引後営業利益 ÷ 投下資本(有利子負債 + 株主資本)
一般的に自社株買いを積極的に行っている企業の場合、純資産が減り自己資本比率が低下するのでROEが高くなります。
また、配当による株主還元を積極的に行っている企業は現金(内部留保)を減らすことになり、財務レバレッジが向上するので、ROEが高くなります。
財務レバレッジ=総資産/自己資本ですので、ROA(%) = 当期純利益/総資産に財務レバレッジをかけ合わせると、当期純利益/総資産 × 総資産/自己資本= 当期純利益/自己資本 = ROEとなります。
つまりROEはROA × 財務レバレッジということになります。
尚、米国企業はROEは12%、ROAは6%程度と言われています。
ROAを見ると直近で12%程度となっています。
JNJの収益性は高いと言えます。
ROICは投下資本からどれだけ税引後営業利益を生み出したかを見ています。
ROICは、営業利益から法人税を差し引く税引後営業利益(NOPAT)を使うことで、債権者と株主に帰属する利益をどれだけ効率よく生み出しているかを見ることができます。
債権者に対して支払う負債コストは主に金利です。
株主資本コストは、配当やキャピタルゲインの期待要求利回りです。
政策金利が上がると有利子負債のコストが高くなります。
債権の金利が高くなると、株式の投資妙味を確保するために株主が企業に対して求める投資リターンの水準も高くなります。
この負債コストと株主資本コストを加重平均した資金調達コストがWACCで、企業はWACC以上の利回り、すなわちROICを目指す必要があります。

米国企業のROICは10%程度が平均で、日本企業は6%程度になりますので、JNJの投資効率は高いことが分かります。
2017年にROICが減っているのは、前述の税制改革に伴い、$16,373Mの法人税を計上し、税引後営業利益(NOPAT)が減少したためです。
尚、ROICは株主と債権者両方の視点が入っていますが、先程のROEは当期純利益を純資産(自己資本)で割ったもので、株主視点の指標であると言えます。
一方、ROAは当期純利益を総資産で割ったものですので、全社的視点の指標であると言えます。

キャッシュフロー(CF)
以下はJNJのキャッシュの推移を表しています。
FCF(営業CF-投資CF)は毎年プラスであり、キャッシュが積み上がっていることがわかります。
JNJのCFマトリクスを紹介します。
キャッシュフロー計算書を元に2015年~2022年の8年間の営業CFと投資CFデータからCFマトリクスを作成しました。
CFの推移をCFマトリクスで確認することで企業の成熟段階を分析することができます。
以下がその結果です。

CFマトリクスの見方
- 投資期→安定期→停滞期→低迷期→後退期→破綻期と円を描くような矢印が示されていますが、これは企業の一般的なライフサイクルを示しています。
- 横軸に営業CF、縦軸に投資CFをとっています。
- 営業CFがマイナスの場合、ビジネスをすることで損失を出している状態で、プラスの場合はビジネスでキャッシュを得ている状態を指します。
- 投資CFがマイナスの場合、事業投資をしている状態で、プラスの場合は資産を売却してキャッシュを得ている状態を指します。
- 点線が営業CF=投資CFのラインになります。
- CFマトリクス上で点線よりも上に位置している場合、企業のキャッシュは増えていることを示します。
安定期の場合
事業投資も行っているが、ビジネスで儲けた金額の方が大きいことによってキャッシュが増えています。
停滞期の場合
ビジネスでの儲けに加え、資産を売却することでキャッシュが増えています。
低迷期の場合
ビジネスの儲けは損失が出ている状態です。しかし、資産の売却額が本業の損失額よりも大きいため、キャッシュは増えている状態です。
JNJの場合、分析期間の8年は事業投資額よりもビジネスでの儲け額が大きく、安定期にあることが分かります。
安定期と言っても研究開発に積極的な投資を行っていることを以下の記事で解説しています。

コロナ下においても収益性を維持し、積極的な研究開発投資を行い、増配も行っています。
長期保有をする上でも安心感があるではないかと思います。