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本を手に取ったきっかけ・感想
『サピエンス全史』を初めて読んで強く印象に残ったこともあり、同じユヴァル・ノア・ハラリさんの著書、「NEXUS 情報の人類史」を読んでみました。
今回紹介する上巻では、人間にとってネットワークとしての機能をもつ「情報」について、宗教や国家を支える神話や物語、さらには印刷技術やSNSを始めとする情報技術の発展により、情報が大量に、急速に拡散するような社会になったことで、私たち人類がどのように情報社会を歩んできているのかを壮大なスケールで描き出します。
本書は、冒頭のプロローグが長めに構成されており、本書の主張が凝縮されていますので、プロローグ部分を熟読するとより理解しやすいと思います。
- 『サピエンス全史』が好きな方、読んだ方
- 新しい視点から人類史を学びたい方
- 情報社会の背景を知り、現代のニュースやテクノロジーを深く理解したい方
- 宗教・国家・貨幣など「人が信じる仕組み」に興味を持つ方
- 「情報の力」について考えたい方
人生に取り入れたい文脈
本も読むだけではなくて、行動に移さなければ意味がありません。
個人的に共感した部分、覚えておこうと感じた部分、人生に取り入れてみたいと感じた部分だけ取り上げています。
必ずしも書籍の内容の全体を俯瞰しているわけではありませんし、本記事は単なる要約ではありませんので、詳細は書籍を購入して確認してください。
虚構や空想もネクサスになる
ユヴァル・ノア・ハラリさんの著書「サピエンス全史」では「虚構(フィクション)」の力が、膨大な数の見知らぬ人同士が協力することを可能にし、ホモ・サピエンスの発展につながったと紹介されています。



情報はネットワークの一体性を保つ、いわば接着剤のようなものです。
サピエンスは、神や魔法をかけた箒、AIなど、じつに多くのものについての虚構や空想や集団妄想を生み出して広めることによって、何万年にもわたって大規模なネットワークを構築し、維持してきました。
私も含めた一人ひとりの人間は、たいてい自分や世界についての真実を知ることに関心があります。
一方で、過去の歴史を振り返ると、大規模なネットワークはメンバーを束ね、秩序を生み出すために、必ずしも、真実に基づいているわけではなく、虚構や空想に頼っていた事実があります。
たとえばナチズムやスターリン主義が並外れて強力なネットワークを構築していたのがわかりやすい例でしょう。
ネットワークでメンバーを束ねる情報は、虚構や空想を信じて団結する人間の習性をもってすれば、独裁者にとって都合の良い、真実でないもののほうがわかりやすくて魅力的に感じられることもあるかもしれません。
人類は並外れて妄想的な集団思想によってもまとまってしまえる危うさがあるのです。
真実でも誤った陰謀論でも社会的なネクサス〔訳註:「つながり」「結びつき」「絆」「中心」「中枢」などの意〕になり得るということを覚えておきましょう。

自由民主主義陣営の優位は一時的な可能性
1990年代までは自由民主主義陣営が優位に立ったものの、今やそれも一時的な勝利だったように見えると本書では述べられています。

ナチス政権とスターリン政権は残虐な空想と恥知らずの噓に基づいていましたが、歴史的に見れば、それは例外ではなく、そのせいで崩壊することを運命づけられていたわけでもありませんでした。
むしろ、ナチズムとスターリン主義の二つは、人間がこれまでに作り出したネットワークのうちでも屈指の強さを誇っていました。
21世紀には、どこかの新しい全体主義政権がヒトラーやスターリンの轍を踏まずに成功し、全能のネットワークを作り出して、将来の世代に政権の噓や虚構を暴こうという気さえ起こさせないようにすることもありえます。
最後に紹介しますが、行動主体になり得るAIが全能のネットワークを作り出して、人類を支配する未来が訪れるかもしれません。
妄想的なネットワークは失敗する運命にあると侮ってはいけません。
真実と秩序のバランスの歴史
何世代にもわたって、人間のネットワークはしだいに強力になりました。
しかし、必ずしも、次第に賢くなったり、進歩しているわけではないと本書では述べられています。
なぜなら、人間の情報ネットワークの歴史は、真実と秩序のバランスを取ろうとする綱渡りの歴史だからです。
自由民主主義陣営が優位な時代と、全体主義が台頭する時代が訪れることに重なっているように個人的に感じました。
ネットワークは、真実よりも秩序を優先するなら、非常に強力にはなれても、その力を無分別に使ってしまいかねないのです。
ソ連共産党のような機関では真理の追求を許した場合、疑いや意見の相違、対立、不和を生み出したり、社会の秩序を保っている神話を損なったりするなど、秩序の維持の点で高くつくことを恐れました。
ソ連では、経済学、遺伝学、歴史学などのどんな問題についても公の定説に疑問を投げ掛ければ、職を失うだけでなく、強制労働収容所に数年間送られたり、死刑執行人に弾丸を浴びせられたりさえしかねませんでした。
自分たちでは制御できない力を生み出す
人類は大規模な協力のネットワークを構築することで自分の手に余るほどの途方もない力を呼び出す傾向にあります。
そうしたネットワークは、その構築の仕方のせいで力を無分別に使いやすくなってしまっているというのが、本書の核心を成す主張です。
情報技術の発展により、情報の非対称性がなくなると、私達は真実を追求することが可能になり、独裁者が無分別に力を使うことを防げるのではないかと考えるかもしれません。
しかし、情報技術の発展は真実を追求をすることを可能にする側面があるだけではなく、秩序の維持を重視したプロパガンダも後押ししました。
印刷術が発展したおかげで科学的な事実が拡散した良い面がありましたが、宗教的な幻想やフェイクニュースや陰謀論もまた、急速に拡散するようになりました。

最も悪名高い例は、魔王が率いる魔女たちの世界的な陰謀とされるものを人々が信じたことです。
それが熱狂的な魔女狩りにつながり、近世ヨーロッパはその波に吞まれました。
情報の自由な流れに対する制限をすべて取り除き、情報の自由市場を創出すれば、誤りは必ず暴かれ、真実に取って代わられるというのは希望的な観測にすぎないと本書では述べられています。
人知を超えたアルゴリズム踊らされる人類
自分たちでは制御できない力を生み出す環境は、インターネットやSNSでさらに整い、今後はAIによっても生み出される可能性があります。
AIは、それをどのように使うかの決定権が人間に委ねられているこれまでのツールとは決定的に異なり、自ら決定を下したり、新しい考えを生み出したりすることのできる史上初のテクノロジーです。
AIはツールではなく、行為主体なのです。
これまでは、歴史上のどの情報ネットワークも、人間の神話作者と官僚に頼って機能してきました。
粘土板やパピルスの巻物、印刷機、ラジオは、広範に及ぶ影響を歴史に与えましたが、あらゆる文書を作成し、それを解釈し、誰を魔女として火あぶりにしたり、誰をクラークとして奴隷にしたりするかを決めるのは、つねに人間の仕事でした。
ところが今や、人間はデジタルの神話作者や官僚を相手に回さなければならなくなります。
我々は誰もが、進化するAIが作り出すフェイクニュースやフェイク動画に踊らされず見分け続けられるでしょうか。

21世紀の政治における最大の分断は、民主主義政権と全体主義政権との間ではなく、人間と人間以外の行為主体との間に生じるかもしれません。
新しいシリコンのカーテンは、民主主義政権と全体主義政権を隔てる代わりに、全人類を、人知を超えたアルゴリズムという支配者と隔てるかもしれません。
そのような世界では私達は、人間のものとは異質の知能の隷属者になっているかもしれません。
エイリアン・インテリジェンスは私たちのやることなすことをすべて監視できますが、私たちのほうはエイリアン・インテリジェンスが何をしているのか、ほとんど何もわからない世界です。