資本主義はなぜ限界なのか: 脱成長の経済学|江原 慶 著

本を手に取ったきっかけ・感想

Pivotで興味を持った書籍です。

現在、格差が拡大し、分断が進んだアメリカの社会を見ていると、資本主義の限界が来ているようにも感じます。

そのような問題意識から手に取った本です。

本書を読むと、資本主義が正解とみなされ、世界で繁栄し得る時代というのは、一時代に過ぎない結果になる可能性さえあると思えました。

日本社会もかつては「一億総中流」ともいわれ、経済成長の果実が企業だけでなく一般の人びとにも還元されていたと見られる時代がありました。

しかし、近年では、成長率がプラスでも、経済格差は拡大しています。

高騰する都市部の家賃は、経済成長を象徴する一方で、高すぎる家賃のために生活費を切り詰めたり、郊外に住まざるをえなくなったりするということは現実に起こっています。

経済成長が、多くの人びとの経済状況の向上とリンクした時代は、遠い過去のものになっています。

経済成長が経済危機にもろく、しかもその経済成長そのものも多くの人びとにとって望ましい豊かさを提供できていないのだとすると、経済成長を希求することそのものを再考すべきときがきているのではないかというのが本書の主張です。

経済成長が一般の人びとの豊かさをもたらしていた、かつての栄光を取り戻すのも、一つの理想ではあります。

しかし、成長が難しくなってきている現状を踏まえ、成長しない経済社会を新たに模索していくのも、現実的な思考ではないでしょうか。

今回は江原 慶さんの著書、「資本主義はなぜ限界なのか: 脱成長の経済学」を紹介します。

この書籍がオススメの人
  • 格差に興味がある人
  • 資本主義の将来について危機感がある人
  • 持続可能な社会に興味がある人
  • 社会学に興味がある人

人生に取り入れたい文脈

本も読むだけではなくて、行動に移さなければ意味がありません。

この記事では個人的に共感した部分、覚えておこうと感じた部分、人生に取り入れてみたいと感じた部分だけを断片的に取り上げています。

必ずしも書籍の内容の全体を俯瞰しているわけではありませんので、詳細は書籍を購入して確認してください。

最近叫ばれる「成長と分配の好循環」のような構図が戦後に可能だったのは、一定の条件があったからというのが本書における印象的な内容でした。

この記事では、その一定の条件についてまとめていきたいと思います。

この一定の条件を知ることで、以前の「資本主義の黄金時代」に戻ればよい、という単純な発想では、現代の問題を打開できないことがイメージできると思います。

資本主義における高度経済成長の条件

高度経済成長の前提条件として、本書では伊藤誠さん(1936 ~2023)による分析を再整理して、次の3つを挙げていました。

  1. 固定相場制
  2. 労働者への分配
  3. 一次産品の低廉かつ豊富な供給

固定相場制

固定為替相場制を中心とする国際通貨体制は国際貿易の順調な拡大の土台を準備しました。

固定相場を維持するためには、通貨安につながる過度な金融緩和は抑制されなければなりません。

これによって通貨の価値に一定の安定性がもたらされ、インフレが抑えられます。

物価が安定し、為替相場の変動もない経済環境では、事業の見通しが立てやすくなり、生産性の上昇も為替の影響を受けずに、ダイレクトに輸出拡大につながりました。

投資も促進されます。

こうした安定的な国際通貨体制の下で、先進各国の企業が市場競争を通じて生産性を上昇させ、経済成長が達成されました。

労働者への分配

先進各国では、労働者の消費水準を底上げし、一般大衆の生活を安定させる福祉国家体制が実現しました。

企業の生産性上昇は、労働者にその成果を還元する余力を企業に与えます。

労働者への分配は、労働者側からの強い働きかけなしに、ひろく実現することはありませんが、資本主義の黄金期は、全般的に、この要求が通った背景がありました。

当時は、ソ連を中心とした社会主義圏の存在感の大きさがあり、大衆の要求をある程度受け入れなければ、資本主義体制自体が揺るがされるという不安が、広く共有されていたのです。

一次産品の低廉かつ豊富な供給

資本主義の黄金期は、農産物やエネルギー資源をはじめとする一次産品が安く、豊富に利用可能でした。

特に中東での油田開発によって、原油は大量に供給され、原油価格は1バレル(約159リットル) 1 ~ 2ドルという安さに抑えられていました。  

これらの資源価格が低く保たれることは、生産性上昇に必要な設備投資を促進するとともに、生産物全般の価格上昇を抑え、スムーズな実質賃金の上昇を可能としました。

その一方で、こうした資源を供給する発展途上国の交易条件は劣位のままにおかれ、南北問題と呼ばれた、国際的な経済格差が固着化してしまう弊害をともないました。

発展途上国における劣位の条件の元、高度経済成長が成り立っていましたので、持続可能ではないことが想像できます。

冷戦下における日本経済への追い風

とりわけ日本においても、石油を大量に消費する経済構造へ転換してきたこともあり、この3つの条件により、高度経済成長を果たしました。

日本の特殊事情として、冷戦という当時の世界構造も、日本経済の復興に有利にはたらきました。

軍備をアメリカにアウトソースする体制は、さまざまな影を日本社会に落としつつも、経済効果としては日本の軍事費の負担を軽減させました。

その分、生産性上昇のための設備投資や福祉の拡充が促進されました。

また、戦後、ソ連と中国という社会主義国に近接した日本は、資本主義圏にとっての「反共の防波堤」とみなされました。

そのため、過激な労働運動を予防すべく、労働者の要求に対して歩み寄りがはかられました。

これにより、日本経済の回復にともない、継続的な賃金上昇が実現します。

高度経済成長の一つ目の条件については変動相場制への移行をともない、崩れることになります。

これにより、急激な円高をもたらし、日本の輸出産業は大きな打撃を受けます。

しかし、当時の日本の場合、終身雇用のようにフォーディズム*以上に安定的な労資関係をもつ日本的経営が行われていました。

*1910年代に米国のフォード自動車が導入した、フォード・システムと呼ばれる自動車の大量生産のシステムに特徴づけられたような「大量生産」と「大量消費」がセットで回る社会。

終身雇用が保証されている状況でなら、労働者も、新技術が導入されると自身の雇用がおびやかされるのではないか、という恐怖をあまり感じずに済みます。

これによって、日本の輸出産業は、当時最先端のオートメーション技術をスムーズに採用していくことができ、生産性の上昇を達成します。

これにより、円高の影響を相殺させることができました。  

高度経済成長の1つ目の条件が崩れたとしても、良くも悪くも問題が健在化することがなかったのです。

持続不可能であった高度経済成長の条件

高度経済成長の3つの条件について、御存知の通り、現在は既に崩れており、そもそも持続不可能な条件だったことがわかります。

固定相場制を軸とするブレトン・ウッズ体制は70年代に崩壊し、現在の変動相場制へと移行しました。

3つ目の条件についても、中東戦争をきっかけとして、1973年に原油価格が4倍に引き上げられ、オイルショックが起こりました。

さらに新興国の台頭は、先進国側の視点からすると、製造拠点や労働現場の国外流出による産業空洞化をもたらしました。

これによって、先進国の労働者たちは、企業に対する交渉力を掘り崩されていきます。

賃金も停滞し、高度成長期を特徴づけていた、生産性上昇と賃金上昇のサイクルが成り立たなくなりました。

こうして、大衆の福祉を充実させる福祉国家体制の基礎が弱体化していきました。  

高度経済成長の2つ目の条件であった、労働の条件も、グローバリゼーションによって失われました。

新興国の台頭としてのグローバリゼーションは、帝国主義的世界構造の瓦解を決定づけ、先進国経済の成長を頭打ちにしたのです。

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