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本を手に取ったきっかけ・目的・感想
アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは、「今後十年で変わるものは何か」と、しばしば尋ねられたそうです。
一方で『今後十年で変わらないものは何か』と質問されることはほとんどなかったそうですが、「こちらの質問のほうが実は重要なのだ」と彼は言ったそうです。
「決して変わることのないもの」が重要なのは、それを知ることで未来がどう形作られるか、確信が持てるからだそうです。
「アマゾンの顧客たちが低価格かつ迅速な配送を望まない未来を想像することはできない」とベゾスは言ったそうです。
だからこそ、彼はそこに莫大な資金を投下できたのです。
本書では、不確実な世界で成功する人生戦略の立て方として、時代が変わっても変わらない教訓や、人間の行動特性について学ぶことができます。
不確かな未来をはっきり見通したくて、人はよく目を凝らしてさらに遠くを見つめようとします。
つまり、よりたくさんのデータと知性を使って、もっと正確に未来を予測しようとします。
しかし実は、それとは反対のことをするほうが、はるかに効果的なのです。
未来を変えられそうな方法を針の穴を穿つように探すのではなく、過去に避けられなかった大きな出来事を理解することに、より多くの時間を費やすというのが個人的には新しい考え方でした。
この考え方は、ビジネスでもそうですし株式投資でも重要な観点です。
今後の株式市場がどうなるのかは見当もつきません。
しかし、人々の貪欲さや恐怖心が変わることは決してありません。
運やアクシデント、巡り合わせに左右される個々の事象ではなく、いつの世も決して変わらないものに目を向けるということ。
何十年も、何百年も、何千年も、そしてこの先もずっと変わらない「人間の行動パターン」にこそ、この世界を理解するための普遍の真理が隠されており、そこから人生の重要な教訓が得られるのです。
だからこそ、著者はその点を時間をかけてじっくり考えるのだそうです。
今回はサイコロジー・オブ・マネーの著者でもあるモーガン・ハウセルさんの著書「SAME AS EVER この不確実な世界で成功する人生戦略の立て方: 人の「行動原理」が未来を決める」を紹介します。
- ビジネスパーソン
- 個人投資家
人生に取り入れたい文脈
本も読むだけではなくて、行動に移さなければ意味がありません。
個人的に共感した部分、覚えておこうと感じた部分、人生に取り入れてみたいと感じた部分を中心に取り上げています。
必ずしも書籍の内容の全体を俯瞰しているわけではありませんし、本記事は単なる要約ではありませんので、詳細は書籍を購入して確認してください。
二つの小さなものの組み合わせが過小評価されがち
私が印象に残った不変の真理の1つ目として、二つの小さなものが組み合わさったところで大したものにはならないと、過小評価しがちだというものがあります。
これは大自然、テクノロジー、キャリアなどあらゆることに言えることです。
<大自然の場合>
北からのちょっとした冷気はあまり気になりません。
南から吹くちょっとした暖かい風は心地よいです。
しかし、この二つがミズーリ州の上空で混じり合うと、竜巻が発生します。
これは創発効果と呼ばれ、とてつもなく強大な力を発揮します。
<新しいテクノロジーの場合>
一つの取るに足りないものに一つの取るに足りないものが加わると、一つの世界を変えるような技術になりえます。
すべての新しいテクノロジーは、そのテクノロジー単体で価値が決まるわけではありません。
まったく異なるスキルと視点を持った別の誰かがどう活用するのかによっても、最終的な価値が大きく変わってくるのです。
<本の場合>
これは新しいテクノロジーを誰がどう活用するのかで価値が変わってくるという文脈で挙げられた例ですが、個人的に印象に残ったので紹介します。
Visaの創業者のディー・ホックは次のように述べたそうです。
「本とは、著者が書いたものをはるかに超える存在である。書かれたものから人々が想像し、読み解くことのできるすべてである」
書籍には、著者が残した文脈だけではなく、その文脈から読者が新たに考えたことや、関連付けなど、文脈以上の価値が読者の中に生まれるというのは、自身振り返ってもそのとおりだなと思いました。
<キャリアの場合>
いくつかの平凡なスキルを適切なタイミングでかけ合わせた人は、一つのことを専門にしている人よりも何倍も成功したりします。
これも、私自身振り返って感じるところですが、ある一つの専門性では第一人者ではなかったとしても、別の専門性を掛け合わせることによって比較的簡単に希少な存在になれます。
「ちょっとした非効率」がもたらす素晴らしい結果
今は「タイパ」という言葉があるように、時間を無駄にしない効率的な生活をしようと努力している人は多と思います。
このような世の中なので、見過ごされがちですが、時間を無駄にしたほうが素晴らしい結果につながる場合もあります。
皮肉なことに、仕事を離れて自由に思いをめぐらせているときに、いちばん重要な仕事が片づいたりするものだと本書では記載されています。
確かに、シャワーを浴びているときや、散歩をしている時に急に、仕事のアイデアが降りてくるときがあります。
多くの仕事において考える時間が鍵になるにもかかわらず、多くの人は従来の就業スケジュールではその時間がうまく取れていないことに気づいていないのが問題です。
私も漏れなくその一人ではありますが、近年「考える仕事」が増えつづけています。
従来の八時間労働は、反復的な仕事や肉体労働にはとても適していますが、「考える仕事」には向かないかもしれません。
考える仕事の多くは、基本的に終わりがありません。
熟考したり好奇心を働かせたりするための時間を作らなければ、デスクに向かって作業をこなす時間の効率が落ちてしまいます。
これは、常に忙しくしていることを尊いと感じ、人から忙しそうだと思われたい「張り切り屋」とは真逆の考え方になります。
小さな変化を積み重ね大きな変化を起こす
著者は前著『サイコロジー・オブ・マネー一生お金に困らない「富」のマインドセット』(児島修訳、ダイヤモンド社)で次のように書きました。
「大きなリターンを得ることよりも、経済的に破綻しないことを目指したい。破綻せずにやっていれば、いずれ最大のリターンを得られるだろう。なぜなら、長く継続しているうちに、やがて複利の力が驚くほど効果を発揮するからだ」
こつこつと積み重ねる複利の計算を理解できれば、最も重要な問いが「どうすれば最大のリターンを得られるか?」ではなく、「できるだけ長く続けるために、どのくらいのリターンを得るのがちょうどいいのか?」であることに気づくだろうと本書では述べられています。
最大のリターンを狙って破綻をするぐらいなら、目先のリターンを抑えて、長く継続したほうが良いことは理解できます。
小さな変化が長い時間をかけていくつも積み重なることで、とてつもなく大きな変化が生まるというのは、いつだって変わりません。
一瞬で起こる悲劇、時間をかけて起こる奇跡
進歩の積み重ねには時間がかかり、気づかれないことが多い非常に地味なものです。
しかし、破滅の瞬間は突如訪れます。
個人的には、人と人との信頼関係も同じだと感じました。
信頼関係は時間をかけて少しずつ構築していきますが、壊れるときは一瞬です。
皮肉なことに、成長や進歩のほうが衰退よりも影響力があるのにもかかわらず、注目を集めるのは決まって衰退なのも、時間がかかるのか、突如訪れるのかの違いが大きいのではないかと個人的に感じました。
本書では、多くの進歩やよい出来事とは「実際には起こらなかったこと」である一方、ほとんどの悪い出来事は「実際に起こったこと」であるということも原因の一つであると述べられています。
<よい出来事の例>
・起こらなかった死
・かからなかった病気
・勃発しなかった戦争
・回避された悲劇
・阻止された不正
それらを文脈に当てはめて理解したり、想像したりするのは難しいです。
一方で悪い出来事は目に見えます。むしろ、あなたの目の前まで迫ってきます。
<悪い出来事の例>
・テロ攻撃
・戦争
・交通事故
・パンデミック
・株式市場の暴落
・政治闘争

どれも目を逸らすことができません。
悪い出来事が声高に報じられているあいだに、ゆっくりと進歩しているのが通常の状態なのです。
なかなか慣れないでしょうが、このことはこれからもずっと変わりません。
イノベーションが起きるとき
苦難が訪れた時にイノベーションが起こります。
苦難こそが問題を解決しようとする意欲を何よりも刺激し、また苦難こそが今を充実させていると同時に、未来をさらに充実させるためのきっかけにもなっていると認識すべきだと本書では述べられていました。
レーダー。原子力。インターネット。マイクロプロセッサ。ジェット機。ロケット。抗生剤。州間幹線道路。ヘリコプター。GPS。デジタル写真。電子レンジ。合成ゴム。

これらはすべて、軍で開発されたもの、あるいは、軍の多大な影響を受けて誕生したものです。
軍にはただちに解決すべき実に大きな問題が集結します。
「これを今すぐ解決できなければ、国民全員が死に、アドルフ・ヒトラーに世界を乗っ取られてしまう」
そうとなれば、かつてないほど短期間のうちに、驚異的な問題解決と技術革新が達成されてもおかしくないのです。
「期待値」が大きいほど人生は苦しくなる
「あなたはとても幸せで満ち足りているように見えます。幸せな人生を送る秘訣はなんでしょう?」と訊かれ、当時九十八歳だった伝説の投資家、チャーリー・マンガーは次のように答えたそうです。
幸せな人生を送る第一の法則は、期待しすぎないことだ。現実的でない期待をしてしまうと、生涯ずっと惨めな思いをすることになる。そこそこ期待しつつ、人生の結果を、よいことも悪いことも、起こったときにある程度の冷静さをもって受け止めたいものだ。
私の場合、コントロールできない他人にも、過度な期待をしないように心がけています。
他人より幸せになるのは難しい
人々はソーシャルメディアを「実際にコミュニケーションを取る」よりも、「自分をアピールする」ことに使う傾向があると心理学者のジョナサン・ハイトは言ったそうです。
こんな世の中ですので、あなたはほかの人が運転する車、住んでいる家、通っているエリート学校を簡単に見ることができますし、ついつい比較してしまいやすい環境にあります。
人は周りにいる人々と比較して自分の幸福度を測ります。
それゆえ周囲の人々の暮らし向きがよくなると、それまで贅沢品だったものがあっという間に必需品となります。
世界は欲によって動かされているのではなく、嫉妬によって動かされているのだと投資家のチャーリー・マンガーはかつて指摘したそうです。
ただ幸せになりたいなら、なるのは比較的簡単です。
しかし、ほかの人より幸せになりたいと願うなら、それは常に難しいのです。
他人のキラキラした生活が目に入る現代では、自分より他人のほうが幸せだと感じやすい世の中になっています。
石油王のジョン・ロックフェラーが、抗生物質のペニシリンや日焼け止め、そして鎮痛・解熱薬のイブプロフェンを手にすることはありませんでした。
しかし、イブプロフェンも日焼け止めも手に入るからといって、現代のアメリカに住む低所得者がロックフェラーよりも幸せを感じているかというと、そうとはいえません。
「単純な真実」は見過ごされやすい
これは日本の政治を見ているとよく感じることがあります。
日本の少子高齢化は歯止めがかかりません。
政府も子ども手当をはじめとした子育て支援に力を入れています。
しかしながら、調べれば分かることですが、夫婦あたりの平均的な子ども数は 昭和と比べてやや減っているものの、激減しているわけではありません。
少子化の根本原因は、婚姻数の減少です。
さらに日本では、出生の約97%以上が婚姻関係にある夫婦から生まれている(婚外子は極めて少数)という社会構造にあります。
政府の行っている支援策は、少子化の根本原因にとして増加している結婚したくても何らかの理由(機会がない、経済的理由など)で結婚ができない人々には届いていないことが分かります。
これは、子どもが生まれる可能性のある夫婦を増やすという単純な母数の話になりますが、見過されていると言わざるを得ません。