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ASML Holding NV
ASMLは光学および電子ビーム技術(リソグラフィ)を通じて、シリコンウェーハ上にパターンを描画して回路を作るためのハードウェア、ソフトウェア、およびサービスを提供しています。
ASMLは世界で唯一、極端紫外線(EUV)を使った半導体製造における露光装置メーカーです。
EUVはシリコン表面に高密度でより微細なパターンを描画することができる最先端のシステムです。
露光のための光源には紫外線光を使いますが、回線の線幅が細くなるに従い、i線(365 nm)、KrF(248 nm)、ArF(193 nm)、EUV(極端紫外線/13.5 nm)と、現在では線幅10 nmレベルの線をウェーハ面上に焼き付けることができます。

テクノロジー別の売上構成比を見ると屋台骨になっているのは、ArFとEUVであることが分かります。

一方以下の棒グラフは露光装置の販売台数を示しています。
最新のEUV露光装置は台数の割に、売上構成比に占める割合が大きいですので、高単価であることが分かります。

尚、ArFiの「i」は液浸露光技術を示しており、投影レンズとウェーハの間に屈曲率の高い水を満たすことで解像度を上げています。
通常は以下のように、レクチル(フォトマスク)に描かれた回路パターンを投影レンズを通して縮小しウェハー表面に焼き付けますが、EUV光はレンズを透過しないためレンズの代わりにMo/Si製の反射鏡が用いられています。
半導体市場は2030年には1兆ドルになると見積もられていますので、半導体装置メーカーも将来的に市場拡大の恩恵を受けられるのではないかと見られます。

地政学リスク
以下はASMLの地域別売上高になります。
台湾、韓国、中国が大きな割合を占めています。
主要な顧客はIntel、TSMC、Samsungとなっており、地域別売上高にも反映されています。

台湾は地政学的に重要な位置づけとなっており、台湾と中国の関係悪化や、台湾政府の政策、経済、社会環境などの変化が業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。
韓国についても北朝鮮との関係悪化や朝鮮半島での戦争勃発により業績に大きな影響を及ぼす可能性はゼロではありません。
また、日本、米国、そしてASMLを擁するオランダは、足並みを揃えて極端紫外線(EUV)関連の半導体製造装置や先端半導体などを輸出管理規制の対象にしています。
先端品に輸出規制がかけられることになりますが、従来のレガシー半導体向け装置の輸出は堅調なこともあり、輸出規制の影響は限定的と見られます。
ASMLはこれらの動向が長期的には世界の貿易、競争環境、および技術供給チェーンにおいて変化をもたらす可能性があり、ビジネスおよび成長の見通しに不利な影響を与える可能性があると考えています。
株価
ASMLの現在の株価は以下のようになっています。
財務情報分析
ここからは財務情報分析を紹介します。
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貸借対照表(B/S)
以下は、ASMLのバランスシートです。
流動資産が流動負債を上回っているので短期負債の資金ぶりが問題になることもなさそうです。

損益計算書(P/L)
以下は、ASMLの損益計算書です。
営業利益率は30%近くあり、収益性が非常に高いビジネスモデルであることが分かります。

売上高・営業利益・営業利益率・純利益
売上高は右肩上がりで、営業利益率も上昇傾向です。
Annual Reportより作成
事業別売上高を見ると以下のようになっています。

ロジック半導体はスマートフォンやパソコンに搭載され、データ処理や機器の制御など電子機器の頭脳の役割を担います。
一方、ロジック半導体もスマートフォンやパソコンに搭載され、データ保存などの役割を担います。
ROA(総資産利益率)ROE(自己資本利益率)ROIC(投下資本利益率)
以下は、ROA、ROE、ROICでASMLの収益性を折れ線グラフで示しています。
- ROE(%)= 当期純利益 ÷ 自己資本
- ROA(%) = 当期純利益 ÷ 総資産
- ROIC(%)= 税引後営業利益 ÷ 投下資本(有利子負債 + 株主資本)
Morningstar(ValuationのKey Statistics)より作成
一般的に、自社株買いを積極的に行っている企業の場合、純資産が減り自己資本比率が低下するのでROEが高くなります。
また、配当による株主還元を積極的に行っている企業は現金(内部留保)を減らすことになり、財務レバレッジが向上するので、ROEが高くなります。
財務レバレッジ=総資産/自己資本ですので、ROA(%) = 当期純利益/総資産に財務レバレッジをかけ合わせると、当期純利益/総資産 × 総資産/自己資本= 当期純利益/自己資本 = ROEとなります。
つまりROEはROA × 財務レバレッジということになります。
ROICは投下資本からどれだけ税引後営業利益を生み出したかを見ています。
ROICは、営業利益から法人税を差し引く税引後営業利益(NOPAT)を使うことで、債権者と株主に帰属する利益をどれだけ効率よく生み出しているかを見ることができます。
債権者に対して支払う負債コストは主に金利です。
株主資本コストは、配当やキャピタルゲインの期待要求利回りです。
政策金利が上がると有利子負債のコストが高くなります。
債権の金利が高くなると、株式の投資妙味を確保するために株主が企業に対して求める投資リターンの水準も高くなります。
この負債コストと株主資本コストを加重平均した資金調達コストがWACCで、企業はWACC以上の利回り、すなわちROICを目指す必要があります。

米国企業のROICは10%程度が平均で、日本企業は6%程度になりますので、投資効率は高いことがわかります。
尚、ROICは株主と債権者両方の視点が入っていますが、先程のROEは当期純利益を自己資本で割ったもので、株主視点の指標であると言えます。
一方、ROAは当期純利益を総資産で割ったものですので、全社的視点の指標であると言えます。

株主還元
以下は、EPS・DPS・配当性向を示しています。
Annual Reportより作成
変動幅が大きい当期純利益では還元状況がつかみにくいため、企業によっては分母を純資産としたDOE(株主資本配当率)を還元目標としている場合もあります。
そこで、純資産と配当金の推移もまとめています。
ASMLは配当と自社株買いを積極的に行っていることが分かります。
Annual Reportより作成, FCF=営業CF+投資CF
キャッシュフロー
以下はキャッシュフロー計算書を元にASMLのキャッシュの推移を表しています。
2021年、2022年は例年よりも自社株買いを積極的に行いましたので、財務CFが大きなマイナスとなっています。
2016年は投資CFが大きなマイナスとなっています。
これは台湾の半導体検査装置会社、漢民微測科技(エルメス・マイクロビジョン)を約3260億円で買収したことによるものです。
エルメス・マイクロビジョンは元々微細な欠陥を発見できる特殊なビーム式検査装置において世界で高シェア占めており、露光装置周りの検査においても技術力を補完する戦略的な買収となっております。
ASMLのCFマトリクスを紹介します。
キャッシュフロー計算書を元に2015年~2022年の8年間の営業CFと投資CFデータからCFマトリクスを作成しました。
CFの推移をCFマトリクスで確認することで企業の成熟段階を分析することができます。
以下がその結果です。

CFマトリクスの見方
- 投資期→安定期→停滞期→低迷期→後退期→破綻期と円を描くような矢印が示されていますが、これは企業の一般的なライフサイクルを示しています。
- 横軸に営業CF、縦軸に投資CFをとっています。
- 営業CFがマイナスの場合、ビジネスをすることで損失を出している状態で、プラスの場合はビジネスでキャッシュを得ている状態を指します。
- 投資CFがマイナスの場合、事業投資をしている状態で、プラスの場合は資産を売却してキャッシュを得ている状態を指します。
- 点線が営業CF=投資CFのラインになります。
- CFマトリクス上で点線よりも上に位置している場合、企業のキャッシュは増えていることを示します。
安定期の場合
事業投資も行っているが、ビジネスで儲けた金額の方が大きいことによってキャッシュが増えています。
停滞期の場合
ビジネスでの儲けに加え、資産を売却することでキャッシュが増えています。
低迷期の場合
ビジネスの儲けは損失が出ている状態です。しかし、資産の売却額が本業の損失額よりも大きいため、キャッシュは増えている状態です。
今回の内容が参考になれば幸いです。