参入障壁を高めている企業の特徴

参入障壁を高める主な原因

長期投資に向いている企業には高い参入障壁を築いているケースが多いです。

新規参入の可能性が高く、脅威が大きければ競争環境は激しくなります。

一方で参入障壁が高かったり、既存企業からの報復が予想される場合には、既存企業にとって新規参入の脅威は小さくなります。

参入障壁を高める代表的な要因としては以下のようなものが挙げられます。

  • 規模の経済性
  • 経験効果
  • ブランドや顧客のロイヤリティ、先行者利得などによる差別化
  • 多大な資金需要(参入初期の広告費、研究開発費、初期在庫など)
  • 切替えコスト(従業員の再教育など)
  • 流通チャネル
  • 特許
  • 原材料の調達ルート
  • 特定業界に対する規制、政府の方針など

この記事では参入障壁を高める要因別に具体的な企業の例を紹介していきます。

規模の経済

企業のコストは固定費と変動費に分けられます。

変動費は生産量に比例して増えます。

一方、固定費は生産量に無関係とは言わないまでも、変動費よりは生産量の増大の割にコストを増やさなくてすむケースが多いです。

そうすると以下のように、単位あたりコストで見ると変動費は生産量が増えても一定ですが、固定費は単位あたりのコストが低下することが分かります。

勝てるしくみを確実にする 事業戦略コース(株式会社日本能率協会マネジメントセンター)を元に筆者作成

例)ブラックロック

資産運用会社ブラックロックはETF(上場投資信託)の純資産残高が世界最大となっております。

運用資産総額が大きいことで規模の経済が働き、スケールメリットを活かして低コストを実現でき、参入障壁を築いています。

ファンドの経費の中で人件費は大きな割合を占めますが、契約が増えるほど一契約あたりのコストが減り、低コストを実現することができます。

ETFのコスト競争はシェアを拡大するために、利益を削る消耗戦になりがちです。

個人投資家の立場からすると最も手数料の安いファンドが選ばれる傾向にあり、選ばれるファンドに資金が集まり、純資産残高が大きくなるにしたがって、さらに投資家から選ばれやすい側面があります。

純資産残高が大きいということは、繰り上げ償還のリスクを回避できますので、投資家も長期で安心してお金を預けることができます。

経験効果、原材料の調達ルート

高いシェアを獲得している企業は調達面でも原材料を大量に購入することができ、規模の経済性と経験効果が相まってコスト低下をもたらす側面があります。

こうして、コスト・リーダーシップを発揮するための好循環が生まれます。

経験効果は累積の経験量が増えるほど、コスト低下に結びつくというもので、労働者の熟練による生産効率の向上や、作業の標準化、作業方法の改善などコスト要素には累積効果が効くことがわかっています。

例)マクドナルド

世界最大のハンバーガーチェーンのマクドナルドは、トランスファーラブルなマニュアルやシステムを輸出しており、効率的に標準化された店舗オペレーションを世界規模で展開しています。

また、世界規模の原材料調達力も強みです。

全世界で店舗を展開しているためスケールメリットを活かし、最高品質の原材料を安価で安定的に調達するサプライチェーン体制を構築しています。

これにより、おいしい商品をお手ごろな価格で提供することができます。

ブランドや顧客のロイヤリティ、先行者利得などによる差別化

例)S&P グローバル

S&P グローバルは世界における債権の3大格付け会社(S&P グローバル、ムーディーズ、フィッチ)の一つです。

この3社で世界の債権格付けの95%以上を占めており、寡占状態です。

この寡占状態にも理由があり、顧客である債権発行体側の立場では、実績と信頼、ブランド力を有する大手格付け会社の格付けを取得しないことは、より高い金利や資金調達コストを支払うリスクに繋がります。

格付け事業は特に実績と信頼を有するブランド力が重視される事業と言えます。

また、老舗であることが長年の実績と信頼に繋がり、ブランド力にも繋がっている側面があることから先行者利得があるとも言えます。

新興企業が格付け事業に新規参入をしたとしても、3大格付け会社の牙城を崩すことは容易ではないでしょう。

切替えコスト

切替には従業員の再教育が必要であるケースや、売り手の商品が差別化されているため、買い手である自社の切替えコストが高い場合が挙げられます。

例)ディスコ

半導体製造装置(精密加工装置)、消耗品である精密加工ツールの製造・販売、これらに附帯する保守・サービス等を行っているディスコはシリコンウエハーの表面を削るグラインダとシリコンウエハーの表面を磨くポリッシャ、集積回路を切断してチップにするダイザーで世界シェア7~8割を占めています。

「切る」「削る」「磨く」という3つの技術領域に特化した事業を展開しており、この3つの技術領域において差別化された商品を提供しています。

半導体製造装置は高額で頻繁に買い替えるようなものではなく、さらにディスコの場合は精密加工装置に装着して使われる消耗品製造販売、保守・サービスも提供しています。

他社製品に乗換えるために負担するスイッチングコストは計り知れません。

流通チャネル、多大な資金需要

流通チャネルも差別化により優位性を築く方法の一つになります。

例)アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド・カンパニー

アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド・カンパニーは世界最大級の農産物加工・食品原料メーカーです。

ADM、ブンゲ(オランダ)、カーギル(アメリカ)、ルイ・ドレフュス(フランス)の「ABCD」4社が4大穀物メジャーと言われています。

米国や欧州に本社を置く上位5社程度で世界の穀物取引の約8割を占めると見られ、世界の穀物流通に大きな影響力を持っています。

多くの穀物量を扱うためには、穀物の買い付けから集荷、輸送、保管までを世界規模で行うネットワークが必要であり、事業規模が競争力に直結し、他の企業は容易に参入することはできません。

特許

特許で守られるビジネスモデルの典型的な例は医療用医薬品業界でしょう。

技術が特許で守られている20年間は模倣されることはありませんので参入障壁を築くことができます。

しかし、全特許期間中に販売期間を確保できるわけではなく、長い臨床開発期間を含めなくてはなりません。

臨床試験には10年近くかかるケースもあることから、独占的に販売できる期間は10年程度にまで短くなってしまいます。

このようなことから特許制度には、一定の条件を満たした場合、特許期間を延長する制度が設けられており、特許成立日から承認日までの期間の分の最大5年間の延長が認められるケースもあります。

せいぜい10~15年ではありますが、参入障壁を築きながら独占的に新薬を販売することができます。

特定業界に対する規制など

また医薬品は人の生命や健康に関わるものであるため、上市する前には日本のPMDAや米国のFDAのように規制当局による審査を受けなくてはなりません。

臨床試験から承認されるまでのプロセスは長く投資額も必要になります。

医薬品の品質や安全性を確保するために設けられている規制は、同時に参入障壁にもなるでしょう。

今回の内容が参考になれば幸いです。

<参考>

勝てるしくみを確実にする 事業戦略コース(株式会社日本能率協会マネジメントセンター)

変革期を勝ち抜く医薬品マーケティング新戦略(医薬経済社)

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