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製薬企業の売上高と売上原価
今回は医療用医薬品事業を手掛けている製薬企業は売上原価率が低い特徴があるという話をします。
まずは以下のバブルチャートを見てください。
横軸に売上高、縦軸に売上原価、バブルの大きさが企業の時価総額の大きさを示しています。
国内外問わずの大手製薬企業は大体30%前後の売上原価率であることがわかりました。
また、バブルの大きさを比較すると国内外の大手と言っても、国内の大手はグローバルで見ると企業規模が小さいことが分かります。
出所:SPEEDA (株式会社ユーザベース)、アニュアルレポート、フィナンシャルレポート、有価証券報告書 、Morningstar
※対売上比を元に売上原価を算出
※売上原価率はMorningstarより作成
※時価総額は 2020 年度末(会計年度)現在
出典:日本製薬工業協会 DATABOOK2022
医薬品事業の構成比率が高いほど売上原価率が低くなる傾向
この中には、ジョンソン&ジョンソンや大塚ホールディングスなど、医療用医薬品以外の事業も手掛けている会社も入っていますが、何れの会社も、事業構成の大きな割合を占めているのが医療用医薬品事業になります。
以下はジョンソン&ジョンソンの業構成比率を示していますが、医療用医薬品事業のPharmaceuticalが半分以上を占めています。
大塚ホールディングスは以下の「医療」が医療用医薬品事業になります。
尚、以下の「NC(ニュートラシューティカルズ)」にはポカリスエットを始めとする機能性飲料、ネイチャーメイドなどのサプリメント等の事業が含まれています。
今回紹介した医薬品事業以外も手掛けている企業の売上原価は、医療用医薬品事業以外の事業セグメントも含めた会社全体の売上原価率を使い、医薬品事業の売上原価を求めています。
後ほど紹介しますが、一般的に医療用医薬品事業は他の産業と比較して、原価率が低い傾向にあります。
そのためジョンソン&ジョンソンや大塚ホールディングスが今回比較した製薬企業の中でも、少し原価率が高いのは、コングロマリット経営により、他の原価率が高い事業セグメントが含まれているからではないかと筆者は考えています。
実際に医薬品事業の比率と売上原価率の関係を見てみると、バラつきはあるものの医薬品事業の構成比率が高い企業程原価率が低く抑えられる傾向にあります。
出所:SPEEDA (株式会社ユーザベース)、アニュアルレポート、フィナンシャルレポート、有価証券報告書 、Morningstar
※対売上比を元に売上原価を算出
※売上原価率はMorningstarより作成
※時価総額は 2020 年度末(会計年度)現在
出典:日本製薬工業協会 DATABOOK2022
製薬企業は製造業の中でも原価率が低い
バブルチャートから 主要な国内製薬企業・グローバルメガファーマ問わず、 30%前後の売上原価率が多い事がわかります。
この原価率は他の産業と比較してもかなり低い数値です。
以下は2020年の経済産業省企業活動基本調査の国内における製造業の売上原価率を計算した結果になります。
2020年企業活動基本調査(経済産業省)
以下は製造業の中でも製薬会社が含まれる化学工業の従業者規模別の売上原価率を示しています。
化学工業に関しては企業規模が大きくなるほど売上原価率が低くなる傾向になりますが、従業者規模が1000人以上の企業群でも60%以上の売上原価率になります。
2020年企業活動基本調査(経済産業省)
以下は化学工業の産業分類に含まれる事業ですが、上記の結果は医薬品事業以外を手掛ける製造業のデータも含まれています。
【参考】中分類16:化学工業に分類される産業
- 160 管理,補助的経済活動を行う事業所(16化学工業)
- 1600 主として管理事務を行う本社等
- 1609 その他の管理,補助的経済活動を行う事業所
- 161 化学肥料製造業
- 1611 窒素質・りん酸質肥料製造業
- 1612 複合肥料製造業
- 1619 その他の化学肥料製造業
- 162 無機化学工業製品製造業
- 1621 ソーダ工業
- 1622 無機顔料製造業
- 1623 圧縮ガス・液化ガス製造業
- 1624 塩製造業
- 1629 その他の無機化学工業製品製造業
- 163 有機化学工業製品製造業
- 1631 石油化学系基礎製品製造業(一貫して生産される誘導品を含む)
- 1632 脂肪族系中間物製造業(脂肪族系溶剤を含む)
- 1633 発酵工業
- 1634 環式中間物・合成染料・有機顔料製造業
- 1635 プラスチック製造業
- 1636 合成ゴム製造業
- 1639 その他の有機化学工業製品製造業
- 164 油脂加工製品・石けん・合成洗剤・界面活性剤・塗料製造業
- 1641 脂肪酸・硬化油・グリセリン製造業
- 1642 石けん・合成洗剤製造業
- 1643 界面活性剤製造業(石けん,合成洗剤を除く)
- 1644 塗料製造業
- 1645 印刷インキ製造業
- 1646 洗浄剤・磨用剤製造業
- 1647 ろうそく製造業
- 165 医薬品製造業
- 1651 医薬品原薬製造業
- 1652 医薬品製剤製造業
- 1653 生物学的製剤製造業
- 1654 生薬・漢方製剤製造業
- 1655 動物用医薬品製造業
- 166 化粧品・歯磨・その他の化粧用調整品製造業
- 1661 仕上用・皮膚用化粧品製造業(香水,オーデコロンを含む)
- 1662 頭髪用化粧品製造業
- 1669 その他の化粧品・歯磨・化粧用調整品製造業
- 169 その他の化学工業
- 1691 火薬類製造業
- 1692 農薬製造業
- 1693 香料製造業
- 1694 ゼラチン・接着剤製造業
- 1695 写真感光材料製造業
- 1696 天然樹脂製品・木材化学製品製造業
- 1697 試薬製造業
- 1699 他に分類されない化学工業製品製造業
今回紹介した主要製薬企業は製造業の中でも、さらに製造業の中の化学工業の中でも売上原価率がかなり低い水準であることが分かります。
以下は製造業と製造業以外の産業の売上原価率を比較したものになります。
製造業全体で見ても81.1%の売上原価率ですし、製造業以外の産業と比較しても30%前後の売上原価率というのはかなり低い水準であることが分かります。
2020年企業活動基本調査(経済産業省)
医薬品産業の研究開発費率は他の産業よりも高い
医療用医薬品事業は他の産業と比較しても原価率が低いビジネスモデルであることが分かりました。
原価率が低い一方で医療用医薬品事業は他の産業と比較して、売上高研究開発率が高い産業であることが分かっています。
これについては以下の記事で解説していますので参考にしてください。
株主還元に積極的な製薬企業でも積極的な事業投資が必要ジョンソン&ジョンソンやアッヴィなど製薬企業の中には積極的に配当を出し、株主還元をしている企業があります。
一般的に安定配当の会社はある程度成熟した企業が多く、多額の研究開発費や設備投資がかからないステージにあるため、積極的に配当金という形で株主還元しているイメージを持っている方も多いのではないかと思います。
しかし、製薬会社(新薬の研究開発を行う会社)においては多額の研究開発費を必要としないという点は違います。
確かに特許期間中は参入障壁が築かれ原価率も低いので収益性が高い産業にはなりますが、たとえ成熟企業であっても積極的な事業投資(研究開発投資)が求められるハイリスク・ハイリターンな事業であると言えます。
もし個別株で長期保有できる銘柄を探している場合、以下も参考にしてみてください。
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