この記事では、マーケティングリサーチを実務で行っている筆者が、ウェイトバック集計の方法を例を交えて解説します。
ウェイトバック集計は、ビジネスにおいて重要な意思決定をサポートするために有効な場合があります。
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ウェイトバック集計が必要な場面
ウェイトバック集計の主な目的は、サンプリングによって得られたデータを、母集団の構成に近づけるために補正することです。
これにより、マーケティングリサーチの集計結果を、母集団の構成を反映させた形で、より正確な意思決定につなげることができます。
以下は9,000名(プレミアム会員1,000名、ベーシック会員8,000名)の会員に展開しているサービスに関して、プレミアム会員100名、ベーシック会員500名に満足度調査を行った結果です。
「満足」と回答した人数の割合を見ると、①のプレミアム会員の80%は満足してそうだということは言えそうです。
同様に、②のベーシック会員の70%は満足してそうだということも言えそうです。
一方で、③はどうでしょうか?
今回の調査で回答いただいた600名のうち430名が「満足」と回答しているので、プレミアム会員とベーシック会員をあわせた全体のサービス満足度を72%と解釈して良いでしょうか?
72%という満足度はあくまでも今回サンプリングした、600名のサンプル集団の中での「満足」の割合です。
母集団である会員数はプレミアム会員:ベーシック会員の割合が1:8になっている一方で、今回、調査結果を回収した600名のサンプル集団はプレミアム会員:ベーシック会員の割合が1:5になっています。
母集団のプレミアム会員:ベーシック会員の割合と比較して、サンプル集団のベーシック会員数はもう少し必要だった、もしくはサンプル集団のプレミアム会員数は少し多すぎた、ということになります。
上記のような例の場合、③のサービス全体の満足度を推計するためには、回収数が足りなかったベーシック会員一人あたりの声を大きくするか、回収数が多かったプレミアム会員の声を小さくするか、あるいはその両方を行う必要があります。
ウェイトバック推計を極力最小限にする調査設計に
ウェイトバック推計の話に移る前に、ウェイトバック推計の前にまず考慮しなければならない重要なことを解説します。
それは調査の企画段階から、ウェイトバック推計が必要になることを想定する必要があるということです。
前述の例だと、単に①や②のようにセグメント別に顧客満足度が分かれば良いような調査であれば、ウェイトバック推計は不要かもしれませんが、セグメント別の顧客満足度を束ねてサービス全体の顧客満足度を推計する場合は、必要になってくるかもしれません。
また、可能な限り補正の影響が最小限になるように設計することも重要です。
補正とは前述の例で言うと、回答が得られたセグメントの声を、何倍かに大きくしたり小さくしたりする補正のことです。
では、どのようにして補正の影響を最小限にすれば良いのでしょうか?
それは、調査対象のサンプル集団の構成を可能な限り母集団に近づけることです。
今回の例で言うと、プレミアム会員とベーシック会員の割合を母集団に近づけ、プレミアム会員100名とベーシック会員800名に聴取するか、あるいは回収数を抑えたとしても、プレミアム会員:ベーシック会員の割合が1:8になるようなサンプル数にします。
このように、ウェイトバック推計は調査のサンプル数とも密接に関わり、調査の企画段階から想定する必要があると記載したのはそのためです。
サンプル集団を母集団に近づけるには限界があることもしばしば
とは言え、サンプル集団を母集団の構成と完全に一致させることには限界があることがしばしばです。
例えば以下のようなケースが実務上想定されます。
- 例数が限られる中で、母集団の構成に合わせると、特定のセグメントではサンプル数が異常に少なくなってしまうケース
- 前述の例ですと、プレミアム会員:ベーシック会員の切り口以外に、満足度が大きく分かれそうな、性別や年齢などの切り口でも母集団の構成割合に合わせて目標サンプル数を設定したほうが良いケース
- 思ったよりも特定のセグメントで回答数を集めることができなかったケース
そのため、サンプル数の設計段階から母集団の構成に近づける努力はしつつも、ウェイトバック推計をせざるを得ないことがよく起こります。
ウェイトバック推計のやり方
ここからはウェイトバック推計の方法を先程の顧客満足度調査の例を用いて解説します。
今回、調査結果を回収した600名のサンプル集団はプレミアム会員:ベーシック会員の割合が1:5になっています。
これを母集団のプレミアム会員:ベーシック会員の割合1:8の構成と同じにするならば、600名のあるべき回答者数をプレミアム会員:ベーシック会員でそれぞれ67名:533名にする必要があります。
ウェイトバック推計ではこのあるべき回答数にするために、セグメント別に声を大きくしたり小さくしたりする補正値で調整を行います。
母集団の割合の割にサンプル数が多かったプレミアム会員の「満足」の回答は声を小さくする0.67の補正値をかけあわせて54名
母集団の割合の割にサンプル数が少なかったベーシック会員の「満足」の回答は声を大きくする1.06の補正値をかけあわせて371名となります。
この補正後の合計人数54+371=425名を全調査サンプル数の600名で割ると、ウェイトバック後の全体での満足度推計値の71%を算出することができます。
今回の内容が参考になれば幸いです。