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エクソン モービル(XOM)について
XOMは世界最大級の石油会社です。
石油・ガスの探査・生産から燃料・化学品の精製・販売まで展開する垂直統合型の経営をしています。
XOMはEXXON、Mobil、Essoというブランドの燃料、サービス、潤滑油を世界中で提供しています。
収益は上流工程が牽引していますし、この上流工程への積極投資が将来の競争優位性につながると筆者は考えています。
2020年にパンデミックの影響で産業の全体で上流工程への投資が停滞しました。
回復してきている需要を満たすためには、追加投資が必要になりますが、新しい油田の発見、開発、生産には時間がかかります。

XOMは2020年のパンデミック下で200 億ドルの損失にもかかわらず、約 130 億ドルを上流工程に投資しました。
また、2017-2021年は380 億ドルの収益に対し、2倍以上の900 億ドルを石油・ガスの資源探査に投資をしていました。
2021年以降の需給逼迫下で供給力を強化します。

2022年の産業全体のシェールオイルの生産量は2017年と比較して70%まで増加しました。
一方XOMの米国産シェールオイルの生産量は、2017 年と比較してほぼ 3 倍の生産量となっています。
脱炭素とXOM
世界的なトレンドとしては脱炭素や環境対策の動きがあります。
石油会社は環境意識が高い株主の目もあり、温室効果ガスの排出量が多い原油や天然ガスの生産を抑えることに繋がります。
奇しくも原油、天然ガスの生産減少がこれらの価格上昇につながり、業績に追い風になる側面があります。
脱炭素に向けた取り組みとして、XOMは二酸化炭素(CO2)を回収し、地層に注入して保管するプロジェクトを手掛けています。
CO2回収率が高い三菱重工の技術を加え、環境負荷の低減とコスト削減を目指すために、三菱重工エンジニアリングと共同開発の提携を行っています。
業績
貸借対照表(B/S)
以下は、XOMのバランスシートです。
流動資産が流動負債を上回っているので短期負債の資金ぶりが問題になることはなさそうです。
XOMは石油・ガスの探査・生産で施設をたくさん持っていますので、固定資産が多くなっています。
XOMは株主から集めたお金を使ってしっかりと利益があげられており、純資産に厚みを持たせています。
純資産の割合が大きいですので、一般的には債務超過のリスクが低いと言えます。
自己株式 | $-225,464M |
利益剰余金 | $392,059M |
純資産合計 | $175,683M |
2021年 Annual Reportより作成
損益計算書(P/L)
以下は、XOMの損益計算書です。
2021年 Annual Reportより作成
XOMの損益計算書では粗利や営業利益を確認することができませんが、YahooFinanceでは以下のように計算して営業利益としています。
総収入 | $276,692M |
原油と製品の購入 | $155,164M |
生産および製造費 | $36,035M |
減価償却費(減損を含む) | $20,607M |
コスト合計 | $211,806M |
粗利益 | $64,886 |
販売費及び一般管理費 | $9,574M |
その他税金 | $30,239M |
ドライホールを含む探査費用 | $1,054M |
運営費合計 | $40,867M |
営業利益 | $24,019M |
営業利益の推移は損益計算書で確認することはできませんが、次に示す営業利益は上記のYahooFinance方式で計算した結果で推移を示しています。
売上高・営業利益・営業利益率・純利益
XOMは良くも悪くも業績が原油価格に左右されることがわかります。
2020年はコロナショックの影響で石油需要減少と原油価格下落の影響を受けて売上が大幅に減少し、赤字を計上しました。
一方、2021年は需要回復により追い風を受けました。
長期の売上推移を見ると10年前と比較して、売上が大幅に減少しています。
株主還元
以下は、XOMのフリーキャッシュフローの推移を折れ線グラフで示しており、配当と自社株買いを積上げ縦棒グラフで示しています。
毎年連続増配するためにはキャッシュが必要になりますので、フリーキャッシュフローと配当金の推移をまとめています。
コロナショックの2020年は赤字でしたが、増配を維持しました。
2021年はエネルギーの需要回復と価格の上昇に伴い、本業で得た資金から設備投資などの支出を差し引いた自由に使えるお金(フリーキャッシュフロー)が大幅に増え、増配余力が生まれました。
Form 10-K(CONSOLIDATED STATEMENTS OF CASH FLOWSのCash dividends to ExxonMobil shareholders, Common stock acquired), Yahoo Finance(FCF)より作成
XOMは25年以上連続増配を更新中の配当貴族銘柄でもあります。
配当王・配当貴族銘柄については以下の記事を参考にしてください。

連続増配株ですので配当による株主還元を重視するために、自社株買いは控えている可能性があります。
今後、業績によっては自社株買いをする可能性もあります。
連続増配実績だけではなく、プロが選んだ買って持っておくだけの優良長期保有米国株についてはROA(総資産利益率)とROE(自己資本利益率)
以下は、ROAとROEでXOMの収益性を折れ線グラフで示しています。
ROAを見ると2020年はコロナショックに伴う業績悪化でマイナスでしたが、直近では7%程度まで回復しています。
Morningstar(ValuationのKey Statistics)より作成
- ROE(%)= 当期純利益 ÷ 自己資本
- ROA(%) = 当期純利益 ÷ 総資産
自社株買いを積極的に行っている企業の場合、純資産が減り自己資本比率が低下するのでROEが高くなります。
また、配当による株主還元を積極的に行っている企業は現金(内部留保)を減らすことになり、財務レバレッジが向上するので、ROEが高くなります。
財務レバレッジ=総資産/自己資本ですので、ROA(%) = 当期純利益/総資産に財務レバレッジをかけ合わせると、当期純利益/総資産 × 総資産/自己資本= 当期純利益/自己資本 = ROEとなります。
つまりROEはROA × 財務レバレッジということになります。
米国企業はROEは12%、ROAは6%程度と言われています。
XOMの収益性は標準的と言えます。
ROIC(投下資本利益率)とCFROI(投下資本キャッシュフロー率)
貸借対照表の有利子負債と株主資本を合わせた投下資本に注目をしてみました。
投下資本はTotal capital employedを参照
株主資本はExxonMobil share of equityを参照
有利子負債はTotal Debtを参照
- ROIC(%)= 税引後営業利益 ÷ 投下資本(有利子負債 + 株主資本)
- CFROI(%) = 営業CF ÷ 投下資本(有利子負債 + 株主資本)
ROICは投下資本からどれだけ税引後営業利益を生み出したか、CFROIは投下資本からどれだけ営業キャッシュフローを生み出したかを見ています。
この2つは株主と債権者から調達した資金でどれだけ効率よく営業利益やキャッシュフローを生み出しているかを測るので似たような指標です。
しかしROICの方は、営業利益から法人税を差し引く税引後営業利益(NOPAT)を使うことで、より債権者と株主に帰属する利益をどれだけ効率よく生み出しているかを見ることができます。
債権者に対して支払う負債コストは主に金利です。
株主資本コストは、配当やキャピタルゲインの期待要求利回りです。
政策金利が上がると有利子負債のコストが高くなります。
債権の金利が高くなると、株式の投資妙味を確保するために株主が企業に対して求める投資リターンの水準も高くなります。
この負債コストと株主資本コストを加重平均した資金調達コストがWACCで、企業はWACC以上の利回り、すなわちROICを目指す必要があります。

ROIC(投下資本利益率)とCFROI(投下資本キャッシュフロー率)の結果です。
ROICはMorningstar(ValuationのKey Statistics)より作成
米国企業のROICは10%程度が平均で、日本企業は6%程度になりますので、投資効率は低めです。
尚、ROICは株主と債権者両方の視点が入っていますが、先程のROEは当期純利益を純資産(自己資本)で割ったもので、株主視点の指標であると言えます。
一方、ROAは当期純利益を総資産で割ったものですので、全社的視点の指標であると言えます。

EPS・DPS・配当性向
DPSがEPSを上回る年があり、配当性向も高いことから、増配余力が少ないことが分かります。
MorningstarのDividendsより作成
前年比% | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
EPS | 35.4% | 15.2% | -24.0% | 3.1% | -49.3% | -51.2% | 146.3% | 5.4% | -31.1% | -256.3% | -202.7% |
DPS | 6.3% | 17.8% | 12.8% | 9.8% | 6.7% | 3.5% | 2.7% | 5.6% | 6.2% | 1.5% | 0.3% |
キャッシュフロー(CF)マトリクス
XOMのCFマトリクスを紹介します。
今回Morningstarでまとめられているキャッシュフロー計算書を元に2015年~2021年の7年間の営業CFと投資CFデータからCFマトリクスを作成しました。
CFの推移をCFマトリクスで確認することで企業の成熟段階を分析することができます。
以下がその結果です。

CFマトリクスの見方
- 投資期→安定期→停滞期→低迷期→後退期→破綻期と円を描くような矢印が示されていますが、これは企業の一般的なライフサイクルを示しています。
- 横軸に営業CF、縦軸に投資CFをとっています。
- 営業CFがマイナスの場合、ビジネスをすることで損失を出している状態で、プラスの場合はビジネスでキャッシュを得ている状態を指します。
- 投資CFがマイナスの場合、事業投資をしている状態で、プラスの場合は資産を売却してキャッシュを得ている状態を指します。
- 点線が営業CF=投資CFのラインになります。
- CFマトリクス上で点線よりも上に位置している場合、企業のキャッシュは増えていることを示します。
安定期の場合
事業投資も行っているが、ビジネスで儲けた金額の方が大きいことによってキャッシュが増えています。
停滞期の場合
ビジネスでの儲けに加え、資産を売却することでキャッシュが増えています。
低迷期の場合
ビジネスの儲けは損失が出ている状態です。しかし、資産の売却額が本業の損失額よりも大きいため、キャッシュは増えている状態です。
XOMの場合、2019年までは安定期にありましたが、2020年は事業投資額よりもビジネスでの儲け額が下回る状態になりました。
XOMが通年決算で赤字を計上したのは40年ぶりのようで、コロナショック及び石油価格の大幅な下落がXOMに対して大きな影響を与えた年でした。
またバイデン政権が今後、石油・天然ガス業界の規制強化を行うことによって、事業環境の変化が起こる可能性もあります。
XOMは連続増配株ですが、事業の収益性などを今後も配当を維持できるかどうか客観的に見る必要があります。
その他の保有銘柄についても分析しておりますので、興味のある銘柄は参考にしてみてください。