【ADP】業績とキャシュフローマトリクス

オートマチック データ プロセシング ADP )について

ADPは給与計算、税金、社会保険料など人事・総務関連業務のアウトソーシング事業を手掛けています。

給与計算のアウトソーシング事業では世界最大の企業となっています。

事業セグメントは大きく2つに分けられています。

1つ目が雇用者サービスで小規模企業から大企業まで、幅広いクライアントに給与計算、人材管理、人事管理、出退勤管理、税金、福利厚生の管理を統合するクラウドベースの人材管理(HCM)ソリューションを提供しています。

クラウドを利用したデータビジネスの拡大により、今後の業績拡大が期待されます。

2つ目はPEOサービス(Professional Employer Organization)です。

日本語では習熟作業者派遣組織になります。

中小企業と共同雇用モデルを構築し、福利厚生向上につながるような人材派遣サービスを展開しています。

クライアント企業にとっては人事・総務関連業務をアウトソーシングすることで本業に専念できますし、固定費の削減にも繋がります。

熟練スタッフの派遣を受け入れることで、人事・総務関連業務のソリューションを提供してもらえることになります。

Annual Report (2021)より作成

顧客は140カ国、90万社以上にのぼりますが地域別の売上高を見ると、米国が9割近くを占めており圧倒的であることがわかります。

世界的に強権主義の国で事業展開するリスクが顕在化されてきていますが、ADPの地域別売上高を見る限り、そのリスクは限定的であると思われます。

Annual Report (2021)より作成

全米で約50万社のクライアント、2300万人以上の給与計算データを保有する強みがあり、代表的な民間雇用指標「ADP全米雇用統計」を毎月発表しています。

クライアント企業は一度、人事・総務関連業務をアウトソースするとスイッチングコストがかかるため、他社に乗り換える機会は中々ありません。

ADPにとっては長期間クライアントを囲い込んでサブスクリプション収入を得ることができ、参入障壁を構築することができます。

ADPは45年以上連続増配をしている配当貴族銘柄でもあります。

配当王・配当貴族銘柄については以下の記事を参考にしてください。

配当王・配当貴族が連続増配を実現している配当利回り【2022年9月】

連続増配実績だけではなく、プロが選んだ買って持っておくだけの優良長期保有米国株については無料インカムレポートも参考にしてください。

ADPにとっての機会と脅威

労働市場の人手不足に伴うアウトソーシング需要の高まりはADPにとっては追い風になります。

また、賃金上昇も追い風になる収益モデルとなっています。

労働市場で人手不足を解消しようとする動きや賃上げの動きは、中小企業の福利厚生拡充のニーズにつながりますので、人材派遣サービス(PEO)にとって追い風になります。

ADPは良くも悪くも米国の労働市場に深く関わってきますので、利上げなどを背景に労働市場の採用ペースが想定以上に失速した場合、悪影響を及ぼします。

業績

貸借対照表(B/S)

以下は、ADPのバランスシートです。

流動資産が流動負債を上回っているので短期負債の資金ぶりが問題になることはなさそうです。

ADPは株主から集めたお金を使ってしっかりと利益があげられています。

ADPは自社株買いや配当で株主還元を積極的に行っているため、純資産額が少なくなっています。

自己株式$-15,386.8M
利益剰余金$19,451.1M
純資産合計$5,670.1M
Google Chart Tools サンプル

2021年 Annual Reportより作成

この会社の特徴的な点が流動資産と流動負債の占める割合が大きい点です。

それぞれ何が大きな割合を占めているのかというと、流動資産は顧客からの預かり金(Funds held for clients)が大きな割合を占めており、流動負債は顧客への債務(Client fund obligations)が大きな割合を占めています。

顧客からの預り金$34,905.8M顧客への債務$34,403.8M
上記以外の流動資産$5,836M上記以外の流動負債$3,691M
流動資産合計$40,741.8M流動負債合計$38,094.8M

顧客からの預り金と顧客への債務は大体同じぐらいの金額になっています。

ADPは顧客から税金や給与支払いのための資金を受け取り、顧客のために運用しています。

高格付け債権、MMF、その他現金同等物に投資を行っているようですが、これらの資産からも収益を生み出している状態です。

損益計算書(P/L)

以下は、ADPの損益計算書です。

Google Chart Tools サンプル

2021年 Annual Reportより作成

ADPの損益計算書では上の収益部分の売上高+顧客からの預り金による利息収入を合計して総売上高としています。

原価率が意外と高いと感じられる方がいるかもしれませんが、売上原価には以下が含まれています。

営業経費$7,520.7M
システム開発とプログラミングのコスト$716.6M
減価償却費$403.0M
売上原価合計$8640.3M

売上高・営業利益・営業利益率・純利益

売上高は毎年上昇しており、営業利益率は高い水準で、更に上昇傾向にあることが分かります。

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株主還元

以下は、ADPのフリーキャッシュフローの推移を折れ線グラフで示しており、配当と自社株買いを積上げ縦棒グラフで示しています。

本業で得た資金から設備投資などの支出を差し引いた自由に使えるお金(フリーキャッシュフロー)以上に、配当と自社株買いで株主還元を行っていることが分かります。

Google Chart Tools サンプル

Form 10-K(Dividends, Treasury stock acquired), Yahoo Finance(FCF)より作成

ROA(総資産利益率)とROE(自己資本利益率)

以下は、ROAとROEでADPの収益性を折れ線グラフで示しています。

Morningstar(ValuationのKey Statistics)より作成

  • ROE(%)= 当期純利益 ÷ 自己資本
  • ROA(%) = 当期純利益 ÷ 総資産

自社株買いを積極的に行っている企業の場合、純資産が減り自己資本比率が低下するのでROEが高くなります。

また、配当による株主還元を積極的に行っている企業は現金(内部留保)を減らすことになり、財務レバレッジが向上するので、ROEが高くなります。

財務レバレッジ=総資産/自己資本ですので、ROA(%) = 当期純利益/総資産に財務レバレッジをかけ合わせると、当期純利益/総資産 × 総資産/自己資本= 当期純利益/自己資本 = ROEとなります。

つまりROEはROA × 財務レバレッジということになります。

尚、米国企業はROEは12%、ROAは6%程度と言われています。

ROAで見るとADPの収益性は標準的と言えますが、財務レバレッジをかけた経営をしていることがわかります。

ROIC(投下資本利益率)とCFROI(投下資本キャッシュフロー率)

貸借対照表の有利子負債と株主資本を合わせた投下資本に注目をしてみました。

ADPは顧客への流動負債(Client fund obligations)が大きな割合を占めており、投下資本が小さいのが特徴的です。

Google Chart Tools サンプル

有利子負債はLong-term debt+Obligations under reverse repurchase agreements+Short-term debtで算出

  • ROIC(%)= 税引後営業利益 ÷ 投下資本(有利子負債 + 株主資本)
  • CFROI(%) = 営業CF ÷ 投下資本(有利子負債 + 株主資本)

ROICは投下資本からどれだけ税引後営業利益を生み出したか、CFROIは投下資本からどれだけ営業キャッシュフローを生み出したかを見ています。

この2つは株主と債権者から調達した資金でどれだけ効率よく営業利益やキャッシュフローを生み出しているかを測るので似たような指標です。

しかしROICの方は、営業利益から法人税を差し引く税引後営業利益(NOPAT)を使うことで、より債権者と株主に帰属する利益をどれだけ効率よく生み出しているかを見ることができます。

債権者に対して支払う負債コストは主に金利です。

株主資本コストは、配当やキャピタルゲインの期待要求利回りです。

政策金利が上がると有利子負債のコストが高くなります。

債権の金利が高くなると、株式の投資妙味を確保するために株主が企業に対して求める投資リターンの水準も高くなります。

この負債コストと株主資本コストを加重平均した資金調達コストがWACCで、企業はWACC以上の利回り、すなわちROICを目指す必要があります。

ROIC(投下資本利益率)とCFROI(投下資本キャッシュフロー率)の結果です。

ROICはMorningstar(ValuationのKey Statistics)より作成

米国企業のROICは10%程度が平均で、日本企業は6%程度になりますので、投資効率はかなり高いことがわかります。

尚、ROICは株主と債権者両方の視点が入っていますが、先程のROEは当期純利益を純資産(自己資本)で割ったもので、株主視点の指標であると言えます。

一方、ROAは当期純利益を総資産で割ったものですので、全社的視点の指標であると言えます。

EPS・DPS・配当性向

EPSは毎年上昇しており、配当性向は60%前後で安定しています。

Google Chart Tools サンプル
前年比%2012201320142015201620172018201920202021
EPS11.9%2.5%8.7%-2.9%6.6%22.2%7.1%23.3%8.8%6.5%
DPS8.5%10.4%10.6%3.7%6.7%7.7%12.5%21.4%15.0%5.1%

キャッシュフロー(CF)マトリクス

ADPのCFマトリクスを紹介します。

今回Morningstarでまとめられているキャッシュフロー計算書を元に2016年~2021年の6年間の営業CFと投資CFデータからCFマトリクスを作成しました。

CFの推移をCFマトリクスで確認することで企業の成熟段階を分析することができます。

以下がその結果です。

CFマトリクスの見方

  • 投資期→安定期→停滞期→低迷期→後退期→破綻期と円を描くような矢印が示されていますが、これは企業の一般的なライフサイクルを示しています。
  • 横軸に営業CF、縦軸に投資CFをとっています。
  • 営業CFがマイナスの場合、ビジネスをすることで損失を出している状態で、プラスの場合はビジネスでキャッシュを得ている状態を指します。
  • 投資CFがマイナスの場合、事業投資をしている状態で、プラスの場合は資産を売却してキャッシュを得ている状態を指します。
  • 点線が営業CF=投資CFのラインになります。
  • CFマトリクス上で点線よりも上に位置している場合、企業のキャッシュは増えていることを示します。

安定期の場合
事業投資も行っているが、ビジネスで儲けた金額の方が大きいことによってキャッシュが増えています。

停滞期の場合
ビジネスでの儲けに加え、資産を売却することでキャッシュが増えています。

低迷期の場合
ビジネスの儲けは損失が出ている状態です。しかし、資産の売却額が本業の損失額よりも大きいため、キャッシュは増えている状態です。

ADPの場合、分析期間の6年はビジネスでの儲けによりキャッシュが増えていることが分かります。
2016年と2021年は本業の儲けよりも投資額が上回る年でしたが、他の年は毎年CFを着実に増やしていることが分かります。

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