目次
ビザ(V)について
Vは決済高で世界首位のクレジットカード会社です。
Vと個人消費者は直接の接点はありません。
クレジットカードの発行はイシュアと呼ばれるカード発行会社(日本で言えば三井住友ビザカード、三菱UFJカードなど)が行い、決済代金の建て替え・請求を行います。
貸し倒れリスクはカード発行会社が負うことになります。
ビザは決済ネットワークを提供し、ライセンス収入を得るビジネスモデルです。

以下は事業セグメント別の売上になります。
事業セグメントは4つに分けられます。
サービス料(Service revenues)
VISAの決済サービスを使用することにより得られるサービス料
データ処理収益(Dataprocessing revenues)
承認、清算、決済、付加価値サービス、ネットワークアクセス、その他の保守およびサポートサービス料
国際取引収益(International transaction revenues)
国境を越えた取引処理、通貨交換
その他の収益(Other revenues)
主にVisa ブランドまたはテクノロジーの使用に対するライセンス料、コンシェルジュサービスなどのユーザー向けの付加価値サービス
クライアントインセンティブ(Client incentives)
金融機関、加盟店、および金融機関との契約で提供されるインセンティブ
クライアントインセンティブは収益の減少として会計処理されます。

地域別の売上は米国と米国以外で半々となっています。

業績
貸借対照表(B/S)
以下は、Vのバランスシートです。
2022年 Annual Reportより作成
流動資産が流動負債を上回っているので短期負債の資金ぶりが問題になることはなさそうです。
Vは2008年の上場時に別会社となったVISAヨーロッパを2016年に買収しました。
200億ドル規模の買収になりましたが、債権による160億ドルの資金調達を行い、長期借入金を増やしています。
Vは株主から集めたお金を使ってしっかりと利益があげられています。
Vは自社株買いによる株主還元を実施していますが、自己株式で計上するのではなく、利益剰余金を取り崩す形で計上しています。
自己株式 | $-M |
資本金 | $21,869M |
利益剰余金(Accumulated income) | $16,116M |
その他の包括利益累計額(Total accumulated other comprehensivei ncome(loss),net) | $-2,369M |
その他持ち分 | $-35M |
純資産合計(Total equity) | $35,581M |
損益計算書(P/L)
以下は、Vの損益計算書です。
2022年 Annual Reportより作成
売上原価に相当するものは損益計算書に記載されていませんでした。
営業費用の内訳は次のようになっています。
Vの損益計算書とYahooFinanceで営業利益が微妙に異なりますが、訴訟引当金を引くか引かないかで営業利益が異なっています。
人件費(Personnel) | $ 4,990M |
マーケティング(Marketing) | $ 1,336M |
ネットワーク処理(Network and processing) | $ 743M |
報酬(Professional fees) | $ 505M |
減価償却費(Depreciation and amortization) | $ 861M |
一般管理費(General ad administrative) | $ 1,194M |
訴訟引当金(Litigation provision) | $ 868M |
営業費用合計(Total operating expenses) | $ 10,497M |
売上高・営業利益・営業利益率・純利益
売上高は右肩上がりです。
直近の売上高に占める営業利益率は60%以上、当期純利益率でも50%以上と驚異的で収益性が非常に高いビジネスモデルであることが分かります。
高い営業利益率は分析期間中も上昇傾向にあります。
クレジットカードを発行するのはイシュア、加盟店を開拓するのはアクワイアラになりますので、VISAがこれらの経費を負担することはありません。
明細書や請求書を発行して発送する経費も必要ありません。
必要なのはシステム維持・管理・構築、クレジット発行会社へのクライアントインセンティブなどになりますので、非常に利益率が高いビジネスモデルになっています。
株主還元
以下は、Vのフリーキャッシュフローの推移を折れ線グラフで示しており、配当と自社株買いを積上げ縦棒グラフで示しています。
毎年連続増配するためにはキャッシュが必要になりますので、フリーキャッシュフローと配当金の推移をまとめています。
本業で得た資金から設備投資などの支出を差し引いた自由に使えるお金(フリーキャッシュフロー)と比較しても増配の余地が残されており、自社株買いによる株主還元を積極的に行っていることが分かります。
Form 10-K(Dividends paid, Repurchase of class A common stock), Yahoo Finance(FCF)より作成
ROA(総資産利益率)とROE(自己資本利益率)
以下は、ROAとROEでVの収益性を折れ線グラフで示しています。
Morningstar(ValuationのKey Statistics)より作成
- ROE(%)= 当期純利益 ÷ 自己資本
- ROA(%) = 当期純利益 ÷ 総資産
自社株買いを積極的に行っている企業の場合、純資産が減り自己資本比率が低下するのでROEが高くなります。
また、配当による株主還元を積極的に行っている企業は現金(内部留保)を減らすことになり、財務レバレッジが向上するので、ROEが高くなります。
財務レバレッジ=総資産/自己資本ですので、ROA(%) = 当期純利益/総資産に財務レバレッジをかけ合わせると、当期純利益/総資産 × 総資産/自己資本= 当期純利益/自己資本 = ROEとなります。
つまりROEはROA × 財務レバレッジということになります。
米国企業はROEは12%、ROAは6%程度と言われています。
VのROAを見るとこれを大きく上回っており、直近でも増加傾向にあります。
Vの収益性は高いと言えます。
ROIC(投下資本利益率)とCFROI(投下資本キャッシュフロー率)
貸借対照表の有利子負債と株主資本を合わせた投下資本に注目をしてみました。
- ROIC(%)= 税引前営業利益 ÷ 投下資本(有利子負債 + 株主資本)
- CFROI(%) = 営業CF ÷ 投下資本(有利子負債 + 株主資本)
ROICは投下資本からどれだけ税引後営業利益を生み出したか、CFROIは投下資本からどれだけ営業キャッシュフローを生み出したかを見ています。
この2つは株主と債権者から調達した資金でどれだけ効率よく営業利益やキャッシュフローを生み出しているかを測るので似たような指標です。
しかしROICの方は、営業利益から法人税を差し引く税引後営業利益(NOPAT)を使うことで、より債権者と株主に帰属する利益をどれだけ効率よく生み出しているかを見ることができます。
債権者に対して支払う負債コストは主に金利です。
株主資本コストは、配当やキャピタルゲインの期待要求利回りです。
政策金利が上がると有利子負債のコストが高くなります。
債権の金利が高くなると、株式の投資妙味を確保するために株主が企業に対して求める投資リターンの水準も高くなります。
この負債コストと株主資本コストを加重平均した資金調達コストがWACCで、企業はWACC以上の利回り、すなわちROICを目指す必要があります。

ROIC(投下資本利益率)とCFROI(投下資本キャッシュフロー率)の結果です。
ROICはMorningstar(ValuationのKey Statistics)より作成
米国企業のROICは10%程度が平均で、日本企業は6%程度になりますので、かなり投資効率の良く、さらに投資効率も上昇傾向にあることがわかります。
尚、ROICは株主と債権者両方の視点が入っていますが、先程のROEは当期純利益を純資産(自己資本)で割ったもので、株主視点の指標であると言えます。
一方、ROAは当期純利益を総資産で割ったものですので、全社的視点の指標であると言えます。

EPS・DPS・配当性向
毎年連続増配をしていますが、配当性向を見てもまだ増配の余地があります。

キャッシュフロー(CF)マトリクス
VのCFマトリクスを紹介します。
キャッシュフロー計算書を元に2016年~2021年の6年間の営業CFと投資CFデータからCFマトリクスを作成しました。
CFの推移をCFマトリクスで確認することで企業の成熟段階を分析することができます。
以下がその結果です。

CFマトリクスの見方
- 投資期→安定期→停滞期→低迷期→後退期→破綻期と円を描くような矢印が示されていますが、これは企業の一般的なライフサイクルを示しています。
- 横軸に営業CF、縦軸に投資CFをとっています。
- 営業CFがマイナスの場合、ビジネスをすることで損失を出している状態で、プラスの場合はビジネスでキャッシュを得ている状態を指します。
- 投資CFがマイナスの場合、事業投資をしている状態で、プラスの場合は資産を売却してキャッシュを得ている状態を指します。
- 点線が営業CF=投資CFのラインになります。
- CFマトリクス上で点線よりも上に位置している場合、企業のキャッシュは増えていることを示します。
安定期の場合
事業投資も行っているが、ビジネスで儲けた金額の方が大きいことによってキャッシュが増えています。
停滞期の場合
ビジネスでの儲けに加え、資産を売却することでキャッシュが増えています。
低迷期の場合
ビジネスの儲けは損失が出ている状態です。しかし、資産の売却額が本業の損失額よりも大きいため、キャッシュは増えている状態です。
Vの場合、分析期間の6年はビジネスでの儲けによりキャッシュが増えていることが分かります。
2016年は本業の儲けよりも投資額が上回る年でしたが、2017年以降は毎年CFを着実に増やしていることが分かります。