目次
株式会社ディスコ
事業構成
ディスコは1937年創業で、もともとは砥石製造メーカーでした。
現在は半導体製造装置(精密加工装置)、消耗品である精密加工ツールの製造・販売、これらに附帯する保守・サービス等を行っております。
精密加工装置、精密加工ツールは主に半導体や電子部品などの微細加工に使用されます。
近年、最終製品の小型化、高性能化に伴い精密加工のニーズは増え続けています。
売上高で一番大きな割合を占めているのが精密加工装置になります。

事業領域
ディスコの社会的使命(Mission)は「高度なKiru・Kezuru・Migaku技術によって遠い科学を身近な快適につなぐ」となっており、「切る」「削る」「磨く」という3つの技術領域を極め、3つの技術領域を逸脱しない範囲の事業展開を行っております。
現在、ディスコ製品の大半が半導体製造工程で導入されています。
半導体製造工程には基板ウェーハー上に回路を形成し、半導体チップを作る前工程と、半導体チップを切り分け、配線や樹脂封入などを行う後工程に別れます。
ディスコはシリコンウエハーの表面を削るグラインダとシリコンウエハーの表面を磨くポリッシャで世界シェア7~8割を占めています。
また、集積回路を切断してチップにするダイザーでも世界シェア7~8割を占めています。

前工程各社の売上高に占める割合はスマホやPCなどに使うロジックメモリー向けが大きく、デジタル需要に影響されやすい側面があります。
一方で、後工程にも価値を提供しているディスコはパワー半導体※向け装置の売上高が同業他社に比べて高いという強みがあります。
ロジックメモリー向けの需要がやや抑えられている市場環境下においても、電気自動車(EV)向けの増産を取り込み、デジタル需要に左右されにくい場合があります。
※半導体の中でも更なる省エネ実現のため、効率的な電力供給を実現するもの
地域別売上高
海外比率は8割を超えており、主に中国、台湾が大きな割合を占めているため、アジアでの売上高が大きくなっています。

財務情報分析
ここからは財務情報分析を紹介します。
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貸借対照表(B/S)
以下は、ディスコのバランスシートです。
流動資産が流動負債を上回っているので短期負債の資金ぶりが問題になることもなさそうです。
キャッシュリッチで自己資本比率は高く、財務の安全性は高水準です。

損益計算書(P/L)
以下は、ディスコの損益計算書です。
営業利益率は40%近くあり、収益性が非常に高いビジネスモデルであることが分かります。

売上高・営業利益・営業利益率・純利益
直近の営業利益率は40%近くになりますが、売上高、営業利益の額だけでなく、営業利益率も高めてきており、収益性が高くなっていることが分かります。
2017年に大きな増収増益が見られました。
これはスマートフォンやデータセンター向けに半導体・電子部品の需要が旺盛だったためでした。
一方で、翌年の2018年は設備投資意欲の減退が見られ、大型案件がなかったことも影響し、減収減益となっております。
このように、ディスコの業績は間接的に取引先の設備投資動向や生産動向の影響を受けることが分かります。
特に半導体に関しては、シリコンサイクルと言われる需給のバランスによって変化する市場であり、市場動向によっては設備投資凍結や減産などが、業績に悪影響を及ぼすことがあります。
そのため、ディスコは単年の成果よりも直近4年累計連結経常利益率が会社の成長を計る上で適切と考えており、4年累計連結経常利益率20%以上を重要業績指標と位置づけています。
中長期的にはこの水準の経常利益率を維持できたとすると、かなりの高収益企業に分類されます。
有価証券報告書より作成
しかし、ディスコの売上高は直接的には装置の検収状況に左右されやすいことがわかっており、決算説明資料などでは顧客の投資意欲を製品出荷額の推移で参考にしています。
実際に業績とかなり連動していることが分かります。

新型コロナウィルス禍以降は半導体特需で装置出荷も右肩上がりで業績を牽引してきました。
ROA(総資産利益率)ROE(自己資本利益率)ROIC(投下資本利益率)
以下は、ROA、ROE、ROICでディスコの収益性を折れ線グラフで示しています。
- ROE(%)= 当期純利益 ÷ 自己資本
- ROA(%) = 当期純利益 ÷ 総資産
- ROIC(%)= 税引後営業利益 ÷ 投下資本(有利子負債 + 株主資本)
Morningstar(ValuationのKey Statistics)より作成
一般的に、自社株買いを積極的に行っている企業の場合、純資産が減り自己資本比率が低下するのでROEが高くなります。
また、配当による株主還元を積極的に行っている企業は現金(内部留保)を減らすことになり、財務レバレッジが向上するので、ROEが高くなります。
財務レバレッジ=総資産/自己資本ですので、ROA(%) = 当期純利益/総資産に財務レバレッジをかけ合わせると、当期純利益/総資産 × 総資産/自己資本= 当期純利益/自己資本 = ROEとなります。
つまりROEはROA × 財務レバレッジということになります。
ディスコは前述の通り、高い自己資本比率を維持しながらもROEが高水準ですので、財務の健全性と高収益性を兼ね備えた企業であることが分かります。
ROICは投下資本からどれだけ税引後営業利益を生み出したかを見ています。
ROICは、営業利益から法人税を差し引く税引後営業利益(NOPAT)を使うことで、債権者と株主に帰属する利益をどれだけ効率よく生み出しているかを見ることができます。
債権者に対して支払う負債コストは主に金利です。
株主資本コストは、配当やキャピタルゲインの期待要求利回りです。
政策金利が上がると有利子負債のコストが高くなります。
債権の金利が高くなると、株式の投資妙味を確保するために株主が企業に対して求める投資リターンの水準も高くなります。
この負債コストと株主資本コストを加重平均した資金調達コストがWACCで、企業はWACC以上の利回り、すなわちROICを目指す必要があります。

米国企業のROICは10%程度が平均で、日本企業は6%程度になりますので、投資効率は高いことがわかります。
尚、ROICは株主と債権者両方の視点が入っていますが、先程のROEは当期純利益を自己資本で割ったもので、株主視点の指標であると言えます。
一方、ROAは当期純利益を総資産で割ったものですので、全社的視点の指標であると言えます。

株主還元
以下は、EPS・DPS・配当性向を示しています。
2023年4月1日付で株式分割(普通株式1株につき3株の割合)を行っています。
EPSは分割が行われたと仮定して算定されております。
DPSは株式分割前の実際の配当金の額を記載していますので、以下の結果を見る際は注意してください。
有価証券報告書より作成
変動幅が大きい当期純利益では還元状況がつかみにくいため、企業によっては分母を純資産としたDOE(株主資本配当率)を還元目標としている場合もあります。
そこで、純資産と配当金の推移もまとめています。
現状、自社株買いはあまり行っておらず、配当による株主還元を行っていることが分かります。
実際に株主還元としては、「配当による還元」を基本方針とする旨が2022年度の有価証券報告書に記載されています。
有価証券報告書より作成, FCF=営業CF+投資CF
基本的にはフリーキャッシュフローの範囲内での株主還元であり、DOEの観点でも増配の余地がまだまだ残されています。
ディスコの配当は業績連動部分と余剰資金が原資であり、無理のない配当政策になっています。

キャッシュフロー
以下はキャッシュフロー計算書を元にディスコのキャッシュの推移を表しています。
FCF(営業CF-投資CF)は表示期間でプラスであり、毎年キャッシュが積み上がっていることがわかります。
2017年度は大きな投資CFが発生していますが、羽田R&Dセンターや桑畑工場A棟Dゾーンなどへの設備投資により有形固定資産を取得したことによるものです。
ディスコのCFマトリクスを紹介します。
キャッシュフロー計算書を元に2015年~2022年の8年間の営業CFと投資CFデータからCFマトリクスを作成しました。
CFの推移をCFマトリクスで確認することで企業の成熟段階を分析することができます。
以下がその結果です。

CFマトリクスの見方
- 投資期→安定期→停滞期→低迷期→後退期→破綻期と円を描くような矢印が示されていますが、これは企業の一般的なライフサイクルを示しています。
- 横軸に営業CF、縦軸に投資CFをとっています。
- 営業CFがマイナスの場合、ビジネスをすることで損失を出している状態で、プラスの場合はビジネスでキャッシュを得ている状態を指します。
- 投資CFがマイナスの場合、事業投資をしている状態で、プラスの場合は資産を売却してキャッシュを得ている状態を指します。
- 点線が営業CF=投資CFのラインになります。
- CFマトリクス上で点線よりも上に位置している場合、企業のキャッシュは増えていることを示します。
安定期の場合
事業投資も行っているが、ビジネスで儲けた金額の方が大きいことによってキャッシュが増えています。
停滞期の場合
ビジネスでの儲けに加え、資産を売却することでキャッシュが増えています。
低迷期の場合
ビジネスの儲けは損失が出ている状態です。しかし、資産の売却額が本業の損失額よりも大きいため、キャッシュは増えている状態です。
今回の内容が参考になれば幸いです。