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プロクター & ギャンブル (P&G)について
PGは世界最大の日用品メーカーです。
以下はmoomoo証券で参照できる事業の構成比になります。ファブリック&ホームケア(アリエール、ダウニー、ファブリーズなど)、ベビー・フェミニン&ファミリーケア(パンパースなど)、美容(SK-IIなどのスキンケア商品、パンテーン、h&sなどのヘアケア商品)、グルーミング(ブラウン、ジレットなど)の4つのセグメントに分かれています。
各セグメントで強力なブランド力を持っているのがP&Gの強みです。

以下は地域別の売上です。
米国が半分近くを占めており、欧州も2割以上占めています。
中国を含めたアジア市場も欧州に相当する規模になっています。
今後、インドやアフリカなどの地域の経済規模が大きくなれば、さらなる成長が期待できそうです。

あらゆる生活シーンで多彩なブランドを、グローバルで展開していることが分かります。
PGは50年以上連続増配をしている配当王かつ配当貴族銘柄でもあります。
配当王・配当貴族銘柄については以下の記事を参考にしてください。

株価
PGの現在の株価は以下のようになっています。
業績
貸借対照表(B/S)
以下はPGのバランスシートです。
流動資産が流動負債を下回っているので短期負債の資金ぶりに問題があるように見えますが、毎年のようにフリーキャッシュフローがプラスでキャッシュを生み出す力が強い企業ですのでそこまで心配はしていません。
詳細はキャッシュフロー(CF)のパートを参照ください。

のれんのほとんどはレガシー事業と事業買収の組み合わせになっています。
特にシェービングケアと小型家電は全て事業買収により構成されています。
PGには耐用年数を設定しない無期限ブランド(無形資産)があります。
競争環境、市場シェア、ブランドの歴史、基礎となる製品ライフサイクル、事業計画、および販売されている国々のマクロ経済環境など、いくつかの要素を評価して耐用年数を設定しないことが適切かどうかを決定しています。
特定のイベントや事業環境の変化が発生した場合には、追加の減損評価が行われ、無限期限とした耐用年数の無形資産評価額が調整される場合があります。
PGは自社株買いで株主還元をしており、株主から集めたお金を使ってしっかりと利益が挙げることで純資産にも厚みを持たせています。
資本金(優先株+普通株) | $4,852M |
資本剰余金(Additional paid-in capital) | $65,795M |
従業員持株制償還引当金(Reserve for ESOP debt retirement) | $-916 |
その他の包括利益累計額(Accumulated other comprehensive loss) | $-12,189M |
自己株式(Treasury stock, at cost) | $-123,382M |
利益剰余金(Retained earnings) | $112,429M |
非支配持分(Noncontrolling interest) | $265 |
株主資本合計(TOTAL SHAREHOLDERS’ EQUITY) | $46,854M |
損益計算書(P/L)
以下は、PGの損益計算書です。

売上高に占める原価率は49%、販管費は28%、営業利益率は24%と高い収益性を誇っています。
売上高・営業利益・営業利益率・純利益
売上高は右肩上がりではありませんが、営業利益率が上昇傾向にあり、収益性を高めています。
2014年にペットケア事業をを売却した影響で2015年からの売上は2014年以前よりも低くなっています。
2019年は営業利益と純利益が大きく減少しています。
P&Gは2005年にひげそり事業を手掛けるジレットを買収しました。
ひげそり事業の低迷により減損処理で80億ドルの損失を計上したことに起因しています。
株主還元
以下は、PGのフリーキャッシュフローの推移を折れ線グラフで示しており、配当と自社株買いを積上げ縦棒グラフで示しています。
毎年連続増配するためにはキャッシュが必要になりますので、フリーキャッシュフローと配当金の推移をまとめています。
変動幅が大きい当期純利益では還元状況がつかみにくいため、企業によっては分母を純資産としたDOE(株主資本配当率)を還元目標としている場合もあります。
そこで、純資産と配当金の推移もまとめています。
年によっては本業で得た資金から設備投資などの支出を差し引いた自由に使えるお金(フリーキャッシュフロー)以上に自社株買いと配当による株主還元を積極的に行っていることが分かります。
自社株買いを押さえれば、増配の余地も残されます。
Annual Report(Consolidated Statements of Cash FlowsのDividends to shareholders, Treasury stock purchases)より作成
EPS・DPS・配当性向
直近3年の配当性向は60%程度となっています。
ROA(総資産利益率)ROE(自己資本利益率)ROIC(投下資本利益率)
以下は、ROA、ROE、ROICでPGの収益性を折れ線グラフで示しています。
- ROE(%)= 当期純利益 ÷ 自己資本
- ROA(%) = 当期純利益 ÷ 総資産
- ROIC(%)= 税引後営業利益 ÷ 投下資本(有利子負債 + 株主資本)
Morningstar(ValuationのKey Statistics)より作成
一般的に自社株買いを積極的に行っている企業の場合、純資産が減り自己資本比率が低下するのでROEが高くなります。
また、配当による株主還元を積極的に行っている企業は現金(内部留保)を減らすことになり、財務レバレッジが向上するので、ROEが高くなります。
財務レバレッジ=総資産/自己資本ですので、ROA(%) = 当期純利益/総資産に財務レバレッジをかけ合わせると、当期純利益/総資産 × 総資産/自己資本= 当期純利益/自己資本 = ROEとなります。
つまりROEはROA × 財務レバレッジということになります。
米国企業はROEは12%、ROAは6%程度と言われています。
PGのROAを見ると表示期間では12%程度と安定して推移しています。
PGの収益性は高いと言えます。
2019年のROA及びROEの減少は前述の通り、ひげそり事業の損失を計上が関係しています。
ROICは投下資本からどれだけ税引後営業利益を生み出したかを見ています。
株主と債権者から調達した資金でどれだけ効率よく営業利益やキャッシュフローを生み出しているかを測る指標です。
ROICは、営業利益から法人税を差し引く税引後営業利益(NOPAT)を使うことで、より債権者と株主に帰属する利益をどれだけ効率よく生み出しているかを見ることができます。
債権者に対して支払う負債コストは主に金利です。
株主資本コストは、配当やキャピタルゲインの期待要求利回りです。
政策金利が上がると有利子負債のコストが高くなります。
債権の金利が高くなると、株式の投資妙味を確保するために株主が企業に対して求める投資リターンの水準も高くなります。
この負債コストと株主資本コストを加重平均した資金調達コストがWACCで、企業はWACC以上の利回り、すなわちROICを目指す必要があります。

米国企業のROICは10%程度が平均で、日本企業は6%程度になりますので、投資効率はか高いことがわかります。
尚、ROICは株主と債権者両方の視点が入っていますが、先程のROEは当期純利益を純資産(自己資本)で割ったもので、株主視点の指標であると言えます。
一方、ROAは当期純利益を総資産で割ったものですので、全社的視点の指標であると言えます。

キャッシュフロー(CF)
以下はPGのキャッシュの推移を表しています。
FCF(営業CF-投資CF)は毎年プラスであり、キャッシュが積み上がっていることがわかります。
PGのCFマトリクスを紹介します。
今回Annual Reportでまとめられているキャッシュフロー計算書を元に2016年~2022年の7年間の営業CFと投資CFデータからCFマトリクスを作成しました。
CFの推移をCFマトリクスで確認することで企業の成熟段階を分析することができます。
以下がその結果です。

CFマトリクスの見方
- 投資期→安定期→停滞期→低迷期→後退期→破綻期と円を描くような矢印が示されていますが、これは企業の一般的なライフサイクルを示しています。
- 横軸に営業CF、縦軸に投資CFをとっています。
- 営業CFがマイナスの場合、ビジネスをすることで損失を出している状態で、プラスの場合はビジネスでキャッシュを得ている状態を指します。
- 投資CFがマイナスの場合、事業投資をしている状態で、プラスの場合は資産を売却してキャッシュを得ている状態を指します。
- 点線が営業CF=投資CFのラインになります。
- CFマトリクス上で点線よりも上に位置している場合、企業のキャッシュは増えていることを示します。
安定期の場合
事業投資も行っているが、ビジネスで儲けた金額の方が大きいことによってキャッシュが増えています。
停滞期の場合
ビジネスでの儲けに加え、資産を売却することでキャッシュが増えています。
低迷期の場合
ビジネスの儲けは損失が出ている状態です。しかし、資産の売却額が本業の損失額よりも大きいため、キャッシュは増えている状態です。
PGの場合、分析期間ではビジネスでの儲けによりキャッシュが増えていることが分かります。
PGは連続増配株ですが、CFマトリクスの分析からも毎年CFを着実に増やしており、今後の増配も期待でき、長期保有をする上でも安心感があるではないかと思います。